
二十歳のころ、寝食を忘れて油絵を描くことに夢中になり、自室で描けないような大作(50号~100号)は、大学美術部の専用アトリエで描いていましたので制作のため日曜日も含め毎日通学、授業には出席しなかったものの、この大学生活の4年間が、もののけにとり憑かれたように人生で最も集中して絵を描いた時間でした。

当時は、今のように高性能デジカメやスマホで何でも気楽に撮れる時代ではなく、気になる モチーフが、目に入るとスケッチブックやクロッキー帖を出し写生(デッサン)して記録するしかなく、その分、自分の眼で対象をしっかり観察していました。 (下写真 : 田んぼの「雨あがり」を描いた10号の油絵)

私の心をかき乱し、‘絵を描くことに夢中’となり、憧れたのが、
画家 山口薫の絵でした。
今でも最も敬愛する画家を一人挙げよ、と云われたら「
山口薫」と私は、即座に答えます。

しかし、私が、当時描いていた心象風景画は、描けば描くほど山口薫の絵の‘呪縛’から逃れられず、いつしか絵具箱を閉じ絵筆を仕舞い 気を紛らわすかのように 漆工芸の「
黒田辰秋」・「松田権六」の作品を眺め、若かりしころより敬愛する
白洲正子さんの美意識と慧眼に改めて触発され古志野や古唐津の茶碗に魅かれ、六古窯古陶

の簡潔な美しさに心ときめくようになりました。
今年になり、私は、押し入れの中にあった二十歳のころの油絵を取り出し改めて眺め、これを漆の変わり塗り(唐塗り)にしてみたいとの衝動に駆られました。
漆の特性や漆芸技法を知らない私は、「今日は 残りの人生 最初の一日」(1999年映画「アメリカン・ビューティ」の中のセリフ)と思いながら漆に塗(まみ)れています。