
荻上直子監督(1972~、2005年「かもめ食堂」、2007年「めがね」、2010年「
トイレット」)の オリジナル脚本・監督による 新作「波紋」は、50歳を過ぎ、自分の内にある 意地悪さや 嫌いな人は、徹底的に嫌だし、不愉快なことされたら 根に持つし、しつこい性格などと自分を隠さず 筒井真理子(1962~、2016年「
淵に立つ」主演、2019年「
よこがお」主演)演じる主人公の主婦 依子に 自己を投影して撮った 秀作です。
荻上監督は、普通の主婦 依子の目(現実)と 心(本音)を通して、今や死語となった 過っての 女性規範であった ‘良妻賢母’への 柵(しがらみ)や 今でも 日常生活に 亡霊のように潜む ‘男尊女卑’の風潮を ブラックコメディとして演出、依子のまわりで起きる 日常茶飯事の出来事を 彼女の人生の ‘波紋’として描き、新作「波紋」を 一流のエンターテインメント娯楽映画にしました。

映画は、私たちのまわりにある放射能の環境汚染不安、高齢者介護問題、まとわりつく 宗教の悪弊、障碍者差別など社会の不穏な空気を背景に、さらに その場の雰囲気にすぐ同調する人たちの 無気味さを醸し出しなが

ら、更年期の主婦 依子の 不安と絶望を ヒンヤリ ねちねちと描いていきます。
平凡な主婦の依子は、緑命会と称する新興宗教の信者で、祈りと勉強会に日々励みながら 暮らしていました。

修は、高齢で寝たきりの父親の介護を 妻の依子に押し付け、失踪、亡くなった父親の葬儀にも帰宅しませんでしたが、突然帰って来たその理由は、癌を患い、高額の治療費が、必要となり援助して欲しいとの金の無心のため

でした。
そんな時、離れて暮らす一人息子が、障碍のある年上の女性(津田絵里奈 1987~、自分が、先天性難聴という

こともあって 聾唖の女性をリアルに好演)を連れ帰り、結婚する相手として 母親の依子に紹介しました。
パート先の スーパーでは、クレーマーの常連客(柄本明 1948~)に 罵倒され、自分が、どうすることもできない

トラブルに押しつぶされそうな依子は、そのストレスによる悪感情を、新興宗教に のめり込むことで誤魔化し、爆発しそうな自分の感情を必死で抑えていました。

依子の勤める スーパーの同僚(木野花 1948~)は、一人暮らしの孤独感の毒を吐くように依子が、必死で抑えている内なる感情を煽り、新興宗教 緑命会の女教祖(キムラ緑子 1961~)は、依子の内なる 不安と混乱につけ

入り、怪しげな命の水(たぶん水道水)を大量に 高額で売り、まがい物の物品を ‘あなただけ特別に’と言葉巧みに売り付けていました。

荻上直子監督の オリジナル脚本が、虚しい現実と孤独、それに向き合う者の心理を赤裸々に暴くプロットで、それに併せ、荻上監督の演出も 容赦なく、映画に登場する女性たちを、それぞれ皆、精神の弱さ、思考の危うさ、

心根の意地悪さ、強欲さ、自分勝手(利己主義)さを 重ね合わせて抱える、それゆえに どこか狂っている女たちとしてリアルに描いています。

エンディングで、雨の中、喪服を着た依子が、濡れながら フラメンコを踊るシークエンスは、還暦を過ぎた 筒井真理子の女性としての 魅力にあふれ、悩ましく、なかなかセクシーなシーンでした。