
イラン出身の スウェーデン映画の鬼才 アリ・アッバシ(1981~、42歳、2018年SFファンタジースリラーの傑作「
ボーダー 二つの世界」)の新作クライム(犯罪)サスペンス映画「聖地には蜘蛛が巣を張る」もまた エッジの利いた 秀作映画でした。
「聖地には蜘蛛が巣を張る」(原題「Holy Spider」)は、イランの聖地の一つ マシュハドで実際に起きた 娼婦連続猟奇殺人事件に着想を得て、アリ・アッバシ監督が、脚本を書き、監督・製作した作品です。
この事件を追った実在のイランの女性 ジャーナリストを演じたのが、イランの女優で 過去に 捏造された セックス・スキャンダルで迫害され、イラン社会を追われて フランスに亡命した ザーラ・アミール・エブラヒミ(1981~)です。
アッバシ監督は、この映画の主人公を 架空の女性ジャーナリスト ラヒミとして創作、演じる ザーラ・アミール・エブラヒミが、イランで過去に味わったつらい苦しみと 精神的な屈辱

を醸し出すかのような名演に、カンヌ国際映画祭は、女優賞を与え評価しました。
イランの女性 ジャーナリストのラヒミ(ザーラ・アミール・エブラヒミ)は、マシュハドで発生した「ホーリー・スパイダ

ー(Holy Spider)」事件と呼ばれる犠牲者のすべてが、娼婦の連続猟奇殺人事件を追っていました。
社会を揺るがす 猟奇連続殺人事件の捜査をしようとしない地元警察に不信感を抱いたラヒミは、事件を追う 地元の

記者と手を組み、警察や地元住民が、犯人を「ホーリー・スパイダー(聖なる蜘蛛)」として 密かに崇める 社会的な風潮や 態度に抗って取材と調査をしました。

アッバシ監督の演出は、映画を見る者に 冒頭から犯人が、退役軍人の サイード(メフディ・バジェスターニ 1975~)と分からせ、娼婦殺人は、彼が、神(アラー)から 命じられた自分の仕事(役割)と信じ、「娼婦(=罪人)が、

溢れる聖地を浄化している」という使命感(動機)をもって犯罪を繰り返しているのだと、二人の記者に気付かせます。

しかし、サイードには、彼の犯行を 聖なる行為として 崇める熱狂的な支持者が、おり、同時に イラン社会の 性差別的な文化の中で、サイードの犯行を 極悪非道な犯罪として罰することは、極めて困難であることをラヒミに

教えます。
アッバシ監督は、娼婦たちに対し極悪非道な サイードながら 奇妙な純粋さも持っていて 家庭人としては、善き夫

で 良き父親であることや、犯行も 時に家族が、イスラム教祭事で 妻の実家に行って不在時を見計らって 自宅に娼婦を連れ込んでの犯行など 歪んだ性癖など 猟奇的な側面も描きつつ、その自宅での犯行は、やがて 殺人

の些細な痕跡(小さな証拠)を 幼い娘や 妻に発見されるという サイードの脇の甘いところも描いています。
ラヒミたち二人の記者の 執拗な追跡もあって、ついに警察も逮捕せざるを得なくなりますが、彼に味方する世論を背景に 宗教裁判所や 司法裁判官らの介入もあり、ザイードは、表向き 死刑の判決を受け、死刑執行の日を迎えますが、これもまた

‘さもありなん’で、最後の 痛烈な どんでん返しは、アリ・アッバシ監督の シリアスな 趣旨返しなのでしょう。
イランや トルコでは、撮影許可が、下りず、ヨルダンで、イランの聖地 マシュハドに似た街を ライン・プロデュースし、街並みをプロダンション・デザイン(舞台セット)して撮影したそうです。

プロットの背景からして ダークな色調のシーンが、多く、デンマークの撮影監督 ナディム・カールセン(1984~、38歳)のカメラは、娼婦のたむろする聖地 マシュハドの うさん臭さや 猟奇的な夜の街の 怪しげな雰囲気を見事に捉え、4年前に撮った「ボーダー 二つの世界」に匹敵する すばらしい映像でした。