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心の時空

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せかいのおきく  シネマの世界<第1210話>

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阪本順治監督(1958~)の新作「せかいのおきく」は、江戸時代後期、江戸下町の長屋を舞台に 元侍の父親と一緒に 長屋で暮らす おきく(黒木華 1990~)という 22歳の娘、その長屋の 共同便所(厠)から 下肥(しもごえ、
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人糞尿)を買い取る 汚穢屋(おわいや、肥汲み)の二人の若者、矢亮(池松壮亮 1990~)と 中次(寛一郎 1996~)三人の、いつの時代にもある 初々しい青春物語です。
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このタイトルの「せかい」とは、何からも 誰からも 束縛されない「自由」を意味しています。
「おきく」は、元侍の娘で 父親(佐藤浩市 1960~)と二人、貧しい暮らしながら気の好い長屋住民たちに見守られ
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幸せに暮らしていました。
ある日、元侍のころの因果で父が、殺され、その事件の巻き添えでおきくは、喉を切られ、声を失いました。
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長屋の住民は、家に引きこもるおきくに 声をかけ、食べ物を差し入れ支えていきます。
寺の住職(眞木蔵人 1972~)は、子供たちに字を教えてくれるよう おきくに懇願、寺子屋へ招きます。
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阪本監督の演出は、モノクロの映像で リアリズムに徹しながら おきく(黒木華)が、絶望に立ち向かい 次第に自立していく(解放されていく) 姿を 下肥(しもごえ)買いの 汚穢屋(おわいや)の若者二人、矢亮(池松壮亮)と せかいのおきく  シネマの世界<第1210話>_a0212807_20450987.jpgおきくに恋をする中次(寛一郎)の姿をシンクロさせ、江戸時代最下層の格差社会に生きる 若者たちの青春ファンタジー時代劇として抒情的に撮っています。
「せかいのおきく」を撮った 阪本監督は、現代日本が、歴史上ないくらい 豊かで 自由な時代を謳歌しながら、豊かにも 自由にも生きていない 今の若い世代への 慈愛に満ちたメッセージにしています。
せかいのおきく  シネマの世界<第1210話>_a0212807_20451298.jpg私が、見た阪本順治監督作品は、2011年の「大鹿村騒動記」(原田芳雄 1940~2011没、享年 71歳 遺作)と 2020年の「一度も撃ってません」の 2作だけながら、新たに「せかいのおきく」は、皆さま方へお薦めしたい作品として加わりました。
「せかいのおきく」に描かれた当時の江戸の人口は、推定 100万人と云われ、当時のパリが、80万人、ロンドンは、50万人であったこせかいのおきく  シネマの世界<第1210話>_a0212807_20454964.jpgとから、江戸八百八町 100万人の 住宅密集地の便所(トイレ、昔は、厠と呼びました)から人 糞尿の下肥を汲み取り(もちろん有料で)天秤棒の両端に下げた肥桶で、肥溜舟まで運び、集めた人糞尿を 江戸に張り巡らされた 堀(運河)を利用して 江戸郊外の農耕地まで運搬、田畑の脇に置かれた肥龜(こえがめ)に注ぎ入れ、自然醗酵させて 有機肥料となった下肥は、米や野菜栽せかいのおきく  シネマの世界<第1210話>_a0212807_20455253.jpg培などの有効な肥料となりました。
これが、正真正銘、本当の有機栽培食品です。
江戸は、大都会の交通手段としての 川や堀(運河)が、多く、さらに生活環境でも 水まわりは、良く、生活の中に厠(かわや トイレ)という場所を設け、人糞尿の排泄物を一箇所に集め、それを売り買いする経済システムと 清潔という生活環境(衛生)システムの 二つを普段の暮らしに取
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り入れ、すでに サスティナブル(持続可能)な農林業で自然資源を無駄使いせず、節約していたわけですから(‘もったいない’の実践)、当時 世界一の環境保全国家でした。せかいのおきく  シネマの世界<第1210話>_a0212807_20464087.jpg
世界を制覇し アジア・アフリカ・中近東・オセアニアを植民地にした ヨーロッパ諸帝国の首都 たとえば、パリや ロンドンなどは、その繁栄の華やかさとは裏腹に、上下水道の整備が、お粗末極まりなく、一般市民たちは、おまるに排泄した糞尿を 部屋の窓から 外へ投げ捨て、王侯貴族たちも また自分たちの糞尿をポイ捨てしていました。
せかいのおきく  シネマの世界<第1210話>_a0212807_20465941.jpg食料家畜の内臓もまた 生ゴミとして窓から路上に捨てられ、移動手段であった馬の糞尿も路上にタレ流しされていましたので、パリやロンドンの街中は、異臭と悪臭の漂う大都会でした。
ネズミは、エサに不自由せず大繁殖、生水の汚染も酷いので、ペスト・コレラ・チフスなどの疫病(伝染病)が、大流行、自業自得とは、云え 当時のヨーロッパ帝国の国民たちにとって 暗黒の
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時代でした。
江戸末期、鎖国を続ける日本政府(徳川幕府)に軍事力で開国を迫る諸外国の使節団が、江戸を訪れ、人口
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100万人庶民の暮らす大都会を見て彼らは、江戸の街中に廃棄された ゴミが、ないことや、武士や 町民たちは、江戸八百八町内に 密集して暮らしているにも関わらず、その清潔な 街の佇まいに驚いたそうです。
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阪本監督の新作「せかいのおきく」は、 江戸時代の生活環境システムが、一朝一夕で、できたわけではない背景を視聴覚的に教えてくれ、サスティナブル(持続可能なこと)の実践とは、どんなことか、有機栽培の源泉(エン
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トロピーの再利用)は、どこにあるのかを、若い世代の日本人ならびに ‘もったいない’を学び実践しようとする海外の若者たちが、学べる映画でもあります。

by blues_rock | 2023-05-21 20:20 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)
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