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HOKUSAI と 北斎漫画 ~(余談) ヨーロッパ絵画に与えた影響 シネマの世界<第1099話>

HOKUSAI と 北斎漫画 ~(余談) ヨーロッパ絵画に与えた影響 シネマの世界<第1099話>_a0212807_05033524.jpg画狂老人卍(まんじ) 葛飾北斎の 青年期と 老年期を描いた「HOKUSAI」を見ました‥が、新藤兼人監督(1912~2012)の1981年作品「北斎漫画」を見ている者として どうしても 絵師 葛飾北斎をプロットにする以上、この新作の「HOKUSAI」と40年前の1981年の旧作「北斎漫画」を映画好きのワガママとして私は、比較して(映画の良し悪しを判断して)しまいます。
葛飾北斎(1760~1849没、享年89歳)は、‘富岳三十六景’シリーズの 浮世絵で、世界でもっとも名の知られた 江戸時代中期の天才絵師ですが、北斎は、浮世絵のほかにも 肉筆画、春画(まくらえ、ポルノ)、草双紙の挿絵(イラスト)、天井画、襖絵など 様々な作品を生涯 3万点余り描き遺し、画号たるや 有名になっても簡単に使い捨てていたので一体いくつ使ったのか分からない 鵺(ぬえ)のような奇怪な天才絵師でした。
HOKUSAI と 北斎漫画 ~(余談) ヨーロッパ絵画に与えた影響 シネマの世界<第1099話>_a0212807_05233206.jpg北斎の絵師としての天才ぶりは、‘富岳三十六景’に描かれた「海の荒波」とダ・ヴィンチが、水の流れを観察し描写したそのデッサン力に匹敵し、高精度カメラで撮影した 荒波の静止画像と 北斎の描いた荒波のその形状は、同じであると北斎の観察力に研究者が、舌を巻いたというレポートもあるくらいで、また北斎の画帖「北斎漫画」に描かれた市井の人々のムーブマン、自画像に描かれた表現力は、どれとっても並外れた画才で、天才画家以外の何者でもありません。
北斎は、普段の暮らしも「絵を描くこと」以外 まったく関心が、なかったらしく、生活する上での整理能力のもなく、散らかしっぱなしのゴミ屋敷に住み、ゴミに埋もれ足の踏み場もなくなると北斎は、これまた絵師として父親譲りの才能を発揮した(北斎の助手にして代筆者の)娘の お栄(父の北斎からいつも「お~い!」と呼ばれたので自分の画号を「葛飾応為」にした洒落っ気もありました)と共に 数十回引っ越した奇怪な父娘でもありました。
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お栄(応為)は、一度絵師に嫁ぎますが、嫁らしいこともしないで 夫の稚拙な絵を嗤ったため、すぐ離縁になり、それ以来北斎のもとで、父の北斎 70歳くらいから 89歳で亡くなるまでの 晩年 20年間を親子共に暮らし、北斎の身
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の回りの世話をし、父北斎を看取るとその後出家したそうです。
北斎は、酒も嗜まず 煙草も吸わなかった(饅頭は、何個も食べた)そうですが、娘のお栄は、父北斎と真逆で 酒
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も煙草も 嗜んだそうで、当時の女性としては、破天荒な人柄だったろうと推察します。
お栄は、ゴミ屋敷の部屋の中、着の身着のままの父北斎の横で、一緒にゴミに埋もれ、絵を描いていたとの記録
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も残っていますので、絵師北斎の助手をしていたのであって、世話をしていたのかどうか ‥北斎は、「美人画は、応為には敵わない。」と云っていますので ‘葛飾応為’名の作品が、 10数点と極めて少ないことから、お栄(応
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為)は、父北斎と共に暮らした 20年の間に相当数の “葛飾北斎”名で、浮世絵の下絵(原画)や 肉筆画を描いていると想像します。
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北斎とお栄は、北斎のハンドルネーム(名義)で、春画(まくらえ、ポルノ)を一緒に描いていますから、この天才絵師のお二人、きっと奇怪極まりない父娘だったことでしょう。
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「HOKUSAI」 と 「北斎漫画」の二作品は、「天才絵師 葛飾北斎」に切り込む角度が、異なるので、それぞれ好き嫌いでご覧いただくとして 映画としての質は、一目瞭然です。
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映画は、監督、脚本、俳優で決まると云うのが、私の口癖(持論)ながら、共に「葛飾北斎をプロットにした」この映画二作は、そのことが、じつに分かりやすい作品と云えるでしょう。
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2021年公開の新作「HOKUSAI」は、橋本一監督(1968~)の演出で、老北斎役の 田中泯(1945~、舞踏家、2002年「たそがれ清平衛」の演技が、秀逸で私は、それ以来俳優として注目)が、一人頭抜けて秀逸でした。
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青年北斎を演じた柳楽優弥(1990~、2004年 14歳のとき、是枝裕和監督作品「誰も知らない」で注目される)は、熱演ながら過剰な演技、北斎を見出した稀代の版元(出版プロデューサー)蔦屋重三郎役の阿部寛(1964~)、
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喜多川歌麿役の玉木宏(1980~)などの演出も、やや過剰でいけません。
東洲斎写楽役の浦上晟周(1999~)は、明らかにミスキャスト、演技が、稚拙過ぎます。
HOKUSAI と 北斎漫画 ~(余談) ヨーロッパ絵画に与えた影響 シネマの世界<第1099話>_a0212807_05173119.jpgお栄役の河原れん(1980~、作家)が、共演の田中泯の胸を借りて好演しています。
世界一有名な日本人絵師 HOKUSAI(北斎)を描くのに、春画について、これっぽっちも触れられていないのは、「画竜点睛を欠く」と云えるでしょう。
一方、1981年の旧作「北斎漫画」の脚本ならびに監督は、新藤兼人監督、北斎を演じた 緒形拳(1937~2008、当時 44歳)、娘のお栄をHOKUSAI と 北斎漫画 ~(余談) ヨーロッパ絵画に与えた影響 シネマの世界<第1099話>_a0212807_05173426.jpg演じた 田中裕子(1955~、当時 26歳)、春画「蛸と海女」のモデルを務めた遊女のお直を演じた 樋口可南子(1958~、当時 29歳)ほか、脇役たちのどの顔を見ても迫力に格段の差が、ありました。
HOKUSAI と 北斎漫画 ~(余談) ヨーロッパ絵画に与えた影響 シネマの世界<第1099話>_a0212807_05173612.jpg‘絵画ファン’の方なら、この新作と旧作の二作の映画は、250年前の当時、江戸時代中期の日本からヨーロッパへの貴重な輸出品として船積みされた伊万里磁器の「梱包紙であった浮世絵」が、当時の ヨーロッパ絵画に多大な影響を与え、印象派を誕生させ、その後の ヨーロッパ美術革新に貢献した ジャポニスムを取り入れる起爆剤となった 磁器梱包紙の浮世絵で世界の美術史に、燦然とその名を残す北斎と歌麿や写楽(唯一 春画を描いていない絵師)など他の絵師たちとの関わりも学べますので、ぜひこの二作をご覧になると良いでしょう。 (備考 : 青文字をタップすると記事をご覧いただけますので、良かったら ご参考にしてください。)

by blues_rock | 2021-06-02 00:02 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)
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