「
旅人は 夢を奏でる」の ミカ・カウリスマキ監督(1955~)が、フィンランドの 小さな村の食堂を舞台に、恩人を捜しに 中国から来た料理人とその息子、そして食堂を一人で切り盛りする女性を軸に、食堂に来る地元の人たちとの交流を描いた ヒューマン& ファンタジーロマンス映画です。
弟のアキ・カウリスマキ(1957~、1996年「
浮き雲」、2006年「
街のあかり」)も 映画監督で 兄弟の映画製作会社を設立、二人とも 作家性の強い個性ある良質の映画をコンスタントに発表しています。
フィンランドの映画製作数は、世界 28位、45本(日本は、4位、580本)ながら フィンランド映画が、映画ファンに印象深いのは、この兄弟監督の存在と活躍が、大きいと思います。
さて、毎年国連が、発表している「世界幸福度ランキング(調査対象 156か国)」で フィンランドは、2018年から 3年連続で 世界第 1位(ちなみに日本は、毎年ジリッジリッと順位を下げて現在 62位)ですが、ミカ・
カウリスマキ監督の新作「世界で一番しあわせな食堂」(原題「Mestari Cheng」料理長チェン)は、それを裏付けるような 国民の精神的な成熟度(フィールド)を感じさせつつも、それゆえに抱える健康問題が、精神的な弛緩から来ることを カウリスマキ監督は、「フィンランドの食」を通してコミカルに描いています。
舞台になるのは、フィンランド北部の小さな村で、上海からやって来た料理人 チェン親子(父と息子)が、過って上海時代、高級ホテルの 名シェフとして活躍しているころ、最愛の妻を交通事故で亡くしてから 自暴自棄となり苦難の時に心身ともにお世話になったフィンランド人の恩人を探すため 村に来たところから映画は、始まります。
村人にとって 謎の中国人 チェン(チュー・パック・ホング 1984~)の捜す人物の名前を村人は、誰も知らず、村人相手の食堂を営みながら料理が、ニガテな女性主人の シルカ(アンナ=マイヤ・トゥオッコ 1981~)は、村にいる間、自分の食堂を手伝ってくれるなら チェンの恩人捜しを手伝うと申し出ました。
シルカの食堂に来る中高年層の村人たちは、平和な暮らしで 皆でっぷりと太り、それぞれ何かしら持病を抱え不健康な体でした。
それにいち早く気付いた 中華薬膳料理人のチェンは、異国の不思議な食べ物に疑心暗鬼のフィンランド人の彼らに「医食同源の考え」を指南始めました。
すぐ、その成果が、顕れたのは、アラフォーの女性 シルカでした。
シルカ食堂の料理長 チェンの 薬膳料理は、村の評判となり彼らが、少しずつ健康を取り戻すうちに シルカの食堂は、大盛況になりました。
「世界で一番しあわせな食堂(原題 料理長チェン)」は、1985年の日本映画の傑作「
タンポポ」と 1987年のデンマーク映画の傑作「
バベットの晩餐」、こ
の 2作に対するミカ・カウリスマキ監督のオマージュではないかと私は、思っています。
チェンの フィンランド人の恩人は、チェンが、上海の一流ホテルのシェフとして働いているとき知り合い、妻を交通事故(自転車事故)で亡くし自暴自棄になっていた当時のチェンを励まし 経済的にも支えてくれた人物でした。
シルカや村の常連客たちと打ち解けていくうちに、チェンの発音する中国訛りの恩人の名前と 地元での発音が、違うと分かり、チェンの恩人を知る村人の連絡で 彼の捜す恩人(村出身のフィンランドサッカーチームの選手でした)は、すでにこの世にいないことが、分かりました。
気を落とし沈むチェンを親しくなったシルカや村人たちは、心配しますが、そのころ チェンの観光ビザによる滞在期限は、残り少なく、チェン親子の帰国する日が、近付いていました。
映画は、ミカ・カウリスマキ監督の持ち味(プロット)である ヒューマンかつ ファンタジーなロマンスが、クライマックスからエンディングに向かって展開していきます。
弟のアキ・カウリスマキ監督は、ヒューマンな中にもクールでシリアスな展開が、持ち味(プロット)なので、ミカ&アキ・カウリスマキ兄弟監督の全作品を見たわけでは、ありませんが、私の見た作品は、いずれも秀作なのでカウリスマキ兄弟監督の ‘持ち味比べ’をするも 粋な映画鑑賞かもしれません。