今年の秋は、例年になく良い映画の公開が、続き、拙ブロクの‘シネマの世界’も見た順序ではなく、旧い名作と併せ、私の気分とキーボードの趣くまま、いくつかの作品を同時に書いていますので映画の時間軸は、バラバラ
です。
10月に見たフランス映画「負け犬の美学」(原題「Sparring」)も珠玉の作品でした。
サミュエル・ジュイ監督(1975~)は、この映画が、長編監督デビューとか、されど初演出とは、思えない情感溢れる好いシーンを随所で見せてくれます。
主演は、名優にして名監督であるマチュー・カソヴィッツ(1967~)が、戦歴49戦13勝33敗3引き分けという引退間際の中年ボクター、
スティーブを渋く演じ、彼の信念 ‘負け犬の美学’をさすがという演技で見せてくれます。
45歳になるスティーブは、生活のため家族のために、時おり声のかかる前座試合に出場し、ボロボロになりながらボクシングを続けていました。
愛する妻と子供たち(娘と息子)が、彼の宝でボクシングに敗れても人生に負けたわけじゃないという信念をもってボクシングを続けていました。
ある日、スティーブは、ボクシング仲間の誰もが、敬遠する欧州チャンピオン、タレク・エンバレク(ソレイマヌ・ムバイエ1975~、元WBA世界スーパーライト級チャンピオンなのでリアリティと迫
力満点)の‘スパーリングパートナー’の仕事を耳にし、愛する娘の将来(パリの学校でピアノを学びたいという娘の夢)のために回りが、止めるのも聞かずスパークリング(Sparring)相手として打たれ役を引き受けました。
当然のことながら映画には、多くのファィティング・シーンが、登場し前述のとおり元世界チャンピオンのソレイマヌ・ムバイエは、映画初出演ながらスティーブ役のマチュー・カソヴィッツを相手にリアルなボクシングを披露、二人のファィトシーンが、圧巻で劇中の家族ならずとも映画を見て
いるこちらまで‘見ちゃおれない’心境になりました。
ボロボロになりながらスパーリングパートナーをやり遂げたスティーブをチャンピオンは、見直し(大いに評価し)スティーブにとって50戦目となる‘引退試合’を提案しました。
スティーブは、愛する家族と「自分の引き際」のために闘う決意をしました。
今まで自分のボクシングを見たがる娘が、試合に来ることをスティーブは、認めませんでしたが、自分の父親を友だちやまわりから‘負け犬’と揶揄(からか)われ、それにじっと耐えてきた愛娘オロールをリング脇に座らせ最後に渾身の思いでボクシングをしました。
オーディションで選ばれた娘オロールを演じる少女俳優ビリー・ブレインの無垢な笑顔と父親を心から愛する純真な眼差しが、じつに秀逸で、この父と娘(親子)を見るだけでも「負け犬の美学」は、見る価値が、あります。
スティーブの妻でオロールの母マリオンを演じる女優オリヴィア・メリラティ(1982~)の二人に間合いを取ったクールな、されど深い慈愛に満ちた視線や立ち振る舞い(演技)もこの映画の引き立て役でしょう。