現在公開中の「華氏119」は、これまで2002年「ボウリング・フォー・コロンバイン」で、政治に大きな権力をもつアメリカ・ライフル協会を、2004年「華氏911」で、当時のブッシュ大統領を、2009年「キャピタリズム マネーは踊る」で、ウォール街(金融資本家たち)を、リアリズム映像を駆使し痛烈に批判し、コケにしてきたドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーア(1954~、監督・製作・脚本・出演)が、今回は、先の11月6日アメリカ議会選挙と知事選の中間選挙に向け、反トランプを鮮明にしてアメリカにおける民主主義崩壊の危機をプロットにして撮ったドキュメンタリー映画の怪作です。
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華氏119」の119は、民主党の大統領候補ヒラリー・クリントンが、得票数で286万票(福岡市人口の1.9倍)上回りながら共和党候補のトランプに破れ‘得票数の少ない’トランプが、勝利宣言した11月9日を表しています。
ちなみに「華氏911」の911は、アメリカ国民ならずとも世界中の人が、知っているアメリカと世界を震撼させたアメ
リカ貿易センタービル(ツインタワー)航空機自爆テロ事件発生の9月11日を表しています。
2016年11月9日までメディアや調査機関のほとんどが、ヒラリー候補の勝利を予想する中、ムーア監督自身は、反トランプながらその一か月前の10月18日に「トランプランド」というドキュメンタリー映画を発表、早くも悪しきトランプ新大統領の誕生を予
言していました。
なぜか?
アメリカ中西部のラストベルト(錆び付いた地域)と称されるミシガン州フリント市出身のムーア監督は、父親も祖父も自動車工場で働く組立工労働者(ブルーカラー=民主党のシンボルカラー)でした。
それまで中西部(ラストベルト)は、民主党優位の州でブルー・ステイツ(州)でしたが、この地域に住む保守的で白人中間層の有権者は、民主党大統領候補のヒラリーを支持していないことを宗教心の強い(敬虔なカトリック信者)ジャーナリストでドキュメンタリー作家マイケル・ムーアの‘現地・現場・現実’を明晰に見る目(慧眼)は、ワシント
ンやニューヨークにいると見えない彼らの気持ち(ポピュリズム)を見抜き 肌で感じていました。
人種差別を公言し独善で独裁志向のトランプが、劇中ムーア監督に「私の映画は、撮らないでくれよ」と懇願するシーンや女癖悪くワイセツなスキャンダルの絶えない父トランプと娘イヴァンカとの近親相姦的なスキンシップ(父親がいつも娘の腰やお尻に手を置いている)と卑猥な会
話などムーア監督の容赦ない反(嫌)トランプの映像は、徹底しています。
これが、中国、ロシア、中東アラブのイスラム諸国、北朝鮮などアジア・アフリカの独裁国であれば、とっくの昔、ムーア監督は、暗殺か反逆罪で処刑されていることでしょう。
映画は、巨額の国税を使い既得権益(富裕層・資本家)に譲歩を重ね、労働者を見棄てた当時のオバマ大統領、ヒラリー(元国務
長官)民主党大統領候補への視線も手厳しく、最後まで民主党の大統領予備選で、ヒラリーの対抗馬として民主党員に人気のあったバーニー・サンダース上院議員をヒラリー派の民主党首脳が、排除したことなども鋭く指摘しています。
民主党・共和党を含め、ポストオバマ大統領選出の大統領予備選全候補の中で、唯一アメリカ保守白人中間層に向けの(テレビ番組で鍛えた嘘八百の暴言・虚言を駆使した)パフォーマンスでワシントン(政治家)とニューヨーク(金融資本家ら)の既存体制(エスタブリッシュメント=支配階級)ならびに
既存メデイアに罵詈雑言を浴びせ批判し喝さいを浴びたポピュリスト候補トランプ人気と彼を当選させたアメリカ社会の劣化に鋭く斬り込んでいきます。
映画は、またリベラルな価値観を信奉するリベラリストのムーア監督が、故郷ミシガン州フリントの水道水汚染問題を俎上にのせ、ミニ・トランプの様なミシガン州知事をアポなし突撃インタヴュー、フリント市民の水道水汚染によ
る健康被害データの改ざんを痛烈に告発しています。
返す刀でムーア監督は、当時のオバマ大統領が、ミシガン州健康被害データの改ざんに協力したかのような誤解を与えるフリントの水道水を飲むパフォーマンスを冷ややかに映し、さらにウェストバージニア州の教職員ストを突撃リポートし支持を表明する映像、フロリダ州では、退学
させられた元高校生が、恨みを晴らすためM16自動小銃ライフルを高校に持ち込み乱射、17名の高校生と学校職員を殺した事件に対し、事件後まわりの大人たちの妨害に屈せず高校生たち自ら銃規制を訴える活動にムーア監督は、密着取材し積極的にその活動を支援しています。
ムーア監督は、先の11月6日中間選挙を前に「うんざりして諦めたとき独裁者が、現われる」と、あえて煽情的なプロパガンダ手法で撮影し、2年後の2020年に2期目4年の大統領改選を迎えるトランプにナチスドイツの独裁者ヒトラーの映像を重ね合わせアメリカ国民へ「自分たちの民主主義を守る」行動を呼びかけ、徹底した反トランプの
熱血漢として真っ向勝負を挑んでいます。
その中間選挙の結果は、皆さんご存知の通りです。