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心の時空

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まともな男  シネマの世界<第887話>

スイスは、時おり秀逸な映画を製作します。
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1985年の「山の焚火」などは、十代の姉と発達障害のある聾唖(ろうあ)の弟との偶発的な近親相姦とそれによる姉の妊娠、それに端を発したこれも偶発的な事故による親殺しとセンセーショナルなプロットながら寓話性にa0212807_23482045.jpg富んでいるので印象に残る不思議な映画です。
今夜ご紹介する同国映画監督 ミヒャ・レビンスキー(1972~)が、2015年に発表した「まともな男」(原題「Nichts passie」何も起こってない)は、映画を見ているとイライラしてくる(気持ちが、だんだん不安定になってくる)良い意味で質(タチ)の悪い不思議な秀作映画です。
a0212807_23485545.jpgなぜなら、主人公の中年会社員トーマスは、スイスでなくとも世界中 ‘どこにでもいる普通のまともな人間’で、映画を見ていると自分のまわり(友人・親戚・知人・同僚その他)に ‘いるいる こんな人’と思わせますので妙に現実味が、あるから面白いのでしょう。
映画は、まず冒頭、主人公のトーマスが、ストレスで日ごろ飲まない酒を飲み、酔っぱらってわざと起こした自動a0212807_23482391.jpg車事故の精神治療カウンセリングで、セラピストに「ボクは、いたって普通のまともな人間」と語っているシーンから始まります。
レビンスキー監督は、この最初のつかみ(演出)が、非常に上手く、あわせてレビンスキー監督の脚本は、小さな出来事を緻密に積み重ねる構成をしているので相手のために良かれと思い(自分でそう信じているからなおタチが悪い)、とっさにa0212807_23485861.jpg付いた小さな嘘と行ない(本人は善意のつもり)が、積み重なることで(自分に都合良くその場その場で出まかせを云う優柔不断な人間の保身による些細な嘘の積み重ねで)さらに事態は、どんどん悪い方向に転がっていく、つまり善意の嘘が、負の連鎖に巻き込まれ次第に自分の人生を台無しにしていく「まともな男」の物語です。
a0212807_23490744.jpg中年会社員のトーマス(デービト・シュトリーゾフ 1973~、2007年「ヒトラーの贋札」)は、家族(妻と娘)のためにクリスマス休暇で、スキー旅行に行く計画を立てました。
売れない作家の妻マルティナ(マレン・エッゲルト 1974~)は、倦怠期にあり離婚を考えていますが、夫のトーマスは、まるでそのことに気付いておらず、昔のように妻を愛し、当然妻マルティナもまた自分を愛a0212807_23492532.jpgし、‘喜んで一緒に旅行する’ものと考え一方的(勝手)に予約しました。
15歳の一人娘ジェニー(ロッテ・ベッカー 1999~)は、反抗期でたとえアルプスのリゾートスキー場でも両親とくに父親と一緒に旅行など行きたくもありませんが、父トーマスの‘家族のため’にと云うセリフに引きずられ自分の感情を抑え我慢して行くことにしました。
a0212807_23492929.jpgトーマスは、当初家族3人のスキー旅行計画でしたが、アメリカに出張するシングルファーザーの上司から「クリスマスに娘を一人にしておけないから預かって欲しい」と昇格をエサに依頼され、娘ジェニーの友だちでもあり、きっと娘も喜ぶだろう(本当はさして仲良しではない)と家族に相談a0212807_00041620.jpgせず上司の愛娘ザラ(アニーナ・バルト 1996~)も連れて行くことにしました。
映画に登場する人物たちは、どこにでもいる普通のまともな人たちながら、皆なそれぞれ‘保身する(自分を守る)’ために事なかれ主義で、小さな嘘を重ね、そのことにより起きた小さな事件を隠すので、やがてトーマスは、のっぴきならぬ混沌(巻き戻せない重大な現実)の中で身動きが、取れなくなりa0212807_00042550.jpg「まともな男」と自分で思っているトーマスは、だんだん追い詰められ次第に「異常な男」になっていきました。
家族であれ、恋人、友人、同僚であれ、あらゆる人間関係に必ず付きものの相手との小さな不和(うざい・うっとうしい)や不穏な気持ち(ムカつき・うるさい)を包み隠し、お互いトラブルをできるだけ避けるために保身(自己防衛)する各人のリアルな表情a0212807_23493267.jpg(嘘を付く顔)をスイスの撮影監督 ピエール・メネル(1964~)のカメラは、いじわるなくらい的確に捉えています。
この映画「まともな男」の ‘男’ を ‘女’ に置き変えると、あなたのまわりで、さらなるリアルな人間模様(あるいはしがらみ)が、見えてくることでしょう。

by blues_rock | 2018-10-14 00:04 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)