スタンドアップ 特別版 シネマの世界<第813話>
「スタンドアップ」は、13年前の2005年、ニュージランドの女性監督ニキ・カーロ(1967~)が、撮ったアメリカ初のセクハラ(セクシャルハラスメント)訴訟に勝利した実在の女性を描いた(映画化)した優れた作品です。
現在(いま)アメリカでは、セクハラとパワハラを二重に犯した権力ある政治家(とくに国会議員、フェイク大統領もその一人)、社会的地位のある資産家や実業家のセクハラ、出演をエサに映画製作者からセクハラされたこ
とを告発する勇気ある女性たちが、 ‘Me Too’ ムーブメントに立上がっています。
一方、‘Me Too’ ムーブメントに便乗し過去の恋愛相手(や離婚した元配偶者)からされた望まぬ性行為は、セクハラであったと感情的(ヒステリック)に訴える一部の女性たちの行動を諫める勇気ある女性もいます。
映画の舞台は、アメリカの北ミネソタ(原題は「North Country」)で、1984年にアメリカで初めて大手石炭会社に対して炭鉱現場での女性労働者への男性労働者たちによる卑猥で陰湿なセクハラ行為を見て見ぬふりをする会社経営者に対し彼女たちが、セクハラ集団訴訟を起こし13年後の1997年に画期的な勝訴判決を勝ち取った実話をもとにしたノンフィクション映画です。
主人公のジョージーという未婚のシングルマザーが、炭鉱という男性職場で労働組合を巻き込んで最初は、尻込みする女性同僚たちとの職場闘争、同じ炭鉱で働く父と娘ジョージーとの確執、母ジョージーと息子サムの険悪な関係、そして何よりジョージーが、孤立無援の中で孤独に苛まれ挫折しそうになりながらも友情や家族の深い愛情に支えられ13年もの長い間闘い続けた物語です。
ニキ・カーロ監督は、女性としてジョージーに自分を重ね合わせたかのような入魂の演出で‘人として’あるべき姿を男女問わず、この映画を見るすべての人たち、映画を見なくても‘差別のある社会’で暮らす私たち全員に「見て見ぬふりし、それであなたは、幸せですか?」と問いかけています。
主人公のシングルマザー ジョージーを当時30歳の名女優
シャーリーズ・セロン(1975~)が、ジョージーの旧友
で筋萎縮症の難病に苦しむグローリーを演じるのは、これまた名女優のフランシス・マクドーマンド(1957~)で、アカデミー賞主演女優賞受賞二人の共演が、見どころの一つです。
この二人の女性と関わる俳優が、グローリーの夫カイル役のショーン・ビーン(1959~)、カイルの友人でジョージーの弁護士ビル役をウディ・ハレルソン(1961~)、ジョージーの高校時代のボーイフレンド ボビー役でジェレミー・レナー(1971~)、ジョージーの父ハンク役にリチャード・ジェンキンス(1947~)で、ジョージーを慈悲深く見守る母アリスを演じるのは、アカデミー賞主演女優賞候補の常連 シシー・スペイセク(1949~)
と名優・名女優をキャストしており、彼らが、演じる地味な何気ないシーンにも感動します。
人種差別と社会分断、移民・難民を排斥し、頑なに「アメリカ第一主義」を標榜するアメリカのフェイク大統領には、ぜひ見ていただきたい映画ながら権力に刃向う監督やホワイトハウスをおちょくる映画人の多いハリウッド嫌いの彼が、この映画を見ることは、決してないでしょうね。