人間の條件 (後編) シネマの世界<第781話>
第三部と第四部は、敗戦濃厚な中、ソ連との国境の最前線に設営された駐屯地で古参兵による新兵への理不尽かつ執拗な虐(いじ)めが、繰り返されていました。
一等兵になっても兵舎の中で貫く梶の人間性(是を是、非を非とする正義感)を小林監督は、徹底したリアルな演出で描いていきます。
昭和20年8月15日連合国に無条件降伏した日本にソ連は、日ソ中立条約を廃棄して襲いかかり、圧倒的な軍事力で満州に侵攻、銃弾も食糧も尽きた日本軍兵士たちは、多数のソ連軍戦車の前にバタバタと倒れ死んでいきました。
瀕死の中どうにか生き残った梶は、妻 美千子に再会するまで何としても生き残り犬死しないと決意、戦死した同朋兵士の屍体が、累々と横たわる中を鬼面のような表情で歩く梶の姿を映して終わります。
完結編の第五部と第六部は、撮影監督 宮島義勇のカメラが、さらに冴えすばらしく固定カメラの映像からクローズアップへ、カメラは、さらに寄ってビッグ・クローズアップ、また横から顔の半分、体の半分を光のコントラストにより映し背景のない顔だけをローアングル・ショットで撮り、さらに斜めから撮るダッチアングル・ショットなど今では、多くの撮影監督が、見せる高度な撮影テクニック(=斬新なカメラワーク)を宮島撮影監督は、半世紀あまり前に駆使して見せてくれました。
そういう意味からも「人間の條件」完結編の第五部と第六部は、イタリアレアリズモの名作や傑作映画と比較しても引けを取らない映像で表現され非常に完成度の高い作品であることを見る者に教えてくれます。
戦場で追いつめられた梶は、理性を捨てました。
理不尽な残虐行為に対しては、復讐し生き残るために人の物を盗み、さらに成り行きで人を殺すようになりますが、梶は、常に自らの行い悔い苦悩します。
映画のラストシーンは、心の中の愛しい妻 美千子に語りかけ妻 美千子の面影を追いながらシベリア雪原を歩き、理想の人間になれなかった自分を悔やみ遂に力尽きて死んでいきました。
娯楽といえば、映画が、一般的であった時代、普通の映画館で公開された「人間の條件」は、大ヒットしていますので、映画としての質の高さが、うかがい知れると思います。