籠の中の乙女(後) シネマの世界<第685話>
思考停止の母(ミシェル・ヴァレイ)は、そんな邪悪な父を愛し命令に盲従する管理支配の厳格な実践者でした。
成人の子供たち三人は、仲が良くお互い幼児のように屈託なく無邪気に遊んでいますが、長女(アンゲリキ・パプーリァ 1975~)、次女(マリア・ツォニ)、長男(クリストス・パサリス)の容姿は、どう見てもアラフォー(30歳代半ばから後半)で、見ていて気色の悪い光景です。
この成人三姉弟が、家族以外と接触するのは、長男の性欲処理係として父が、連れてくるクリスティナ(アナ・カレジドゥ)という父の
これが、外の世界をまったく知らなかった長女に変化をもたらし、奇怪な家族の秩序も次第に軋み始めました。
それまで父は、外に興味を示す子供たちに「外は、危険だ。犬歯が、生え変わったら外の世界に出られる。」と教え家族の共通言語も「海のことをアームチェア、塩は電話、女性器をキーボード」など呼んでいましたが、映画ビデオを見てから長女は、名前をブルースと名乗るようになり、父親の誕生パーティで奇妙なダンス(ビデオにあった映画「フラッシュ・ダンス」の真似)を狂ったように踊り両親を驚かせました。
原因が、クリスティナにあると知った父は、彼女をビデオデッキで殴り解雇しました。
長男の性処理相手を失った両親は、長男に長女か次女のどちらか選ばせようと相談、長男が、長女を選ぶと母親は、長女の髪をきれいに梳いてやり長男の部屋に連れて行くシークエンスと母親が、近親相姦の手引きをするシーンのおぞましさは、オカルトも顔負けのホラーです。
「籠の中の乙女」は、“疑うこと、考えること”が、できない人間の狂気、さらに思考停止した人たちの暮らす社会(家庭・共同体・国家)の危険性をしっかりと見せてくれる秀作映画なので機会あれば、ぜひ勇気をもって見てください。
(左写真 : ギリシャ映画‘新しい奇妙な波’世代監督を代表する ヨルゴス・ランティモス監督)