ハイ・ライズ シネマの世界<第653話>
最新作の「ハイ・ライズ」は、ウィートリー監督らしい(シュールでホラーちょっぴりグロテスクかつエロティックな)映画ながらも「ハイ・ライズ(High-Rise 高層建築物=タワーマンション)」を舞台にした現代(つまり1970年代から見た近未来)を皮肉ったシュールなブラックコメディー(SFホラーの不条理ドラマ)です。
プロダクション・デザイン、音楽(サウンド・トラック)が、すばらしくスタイリッシュな映画でもあります。
原作は、イギリスの作家ジェームズ・グレアム・バラード(1930-2009 上海租界地生まれイギリス育ち)が、1975年に発表したSF小説で、シュールレアリスム愛好家のバラードは、「ハイ・ライズ」を1970年代の近未来として執筆しました。
J.G.バラードの原作を映画化した作品に1987年スピルバーグ監督作品「太陽の帝国」、1996年クローネンバーグ作品「クラッシュ」が、あり2作とも秀作映画です。
「ハイ・ライズ」の製作は、イギリスの有名(大物)プロデューサー ジェレミー・トーマス(1949~)で、脚本と共同編集を「キル・リスト」の共同脚本家エイミー・ジャンプ(ウィートリー監督夫人)、撮影も「キル・リスト」の撮影監督ローリー・ローズが、担っているからか「キル・リスト」の不条理劇をヴァージョンアップし、これにストップモーションとスローモーションによるシュールなシーンや奇妙なカットと組み合わせ、コンテンポラリーな音楽とのマッチングも絶妙なので見る者の目と頭を混乱させながらも見入ってしまいます。
映画の物語は、インターネットも携帯電話(スマホ)もない時代、1970年代のロンドン郊外にできた高層建築‘タワーマンション(High-Rise)’ 内の閉鎖社会で起きた上層階と下層階との停電と断水をめぐる対立と抗争、それに端を発した住民の狂気が、全階層を被い凄さまじい紛争になっていきます。
「ハイ・ライズ」には、ジムからスパ、プール、スーパー・マーケットまで準備され快適な環境が、整っているものの上層階の住人ほど富裕層で下層階で暮らす者たちは、差別に不満を募らせていました。
主な登場人物は、25階に住む主人公の医師ロバート(トム・ヒドルストン 1981~ ハンサムな顔立ちと精悍な肉体、スーツをビシッと着こなした姿がカッコ好い)、最上階(40階 ペントハウスと呼ばれている)の住人が、「ハイ・ライズ」の設計者アンソニー(ジェレミー・アイアンズ 1948~ 出演しているだけで映画が格調高くなるから不思議)と妻で有閑マダムのアン(キーリー・ホーズ 1976~)、26階に息子のトビーと住むシャーロット(シエナ・ミラー 1981~ モデルでデザイナーだけあって趣味の好い美貌)、3階のドキュメンタリー監督リチャード(ルーク・エヴァンズ 1979~)と妻のヘレン(エリザベス・モス 1982~)、39階に住むロバートの教え子マンロー(オーガスタス・プリュー 1987~)など入り乱れて「ハイ・ライズ」全体をセックス・暴力・強奪・殺傷が、支配しています。
ロバートが、「ハイ・ライズ」に入居して3か月、至るところに転がり放置された多くの死体、廃墟と化したタワーマンションの中でロバートは、満足そうにシャーロットとベッドを共にしています。
シャーロットの息子トビーは、ラジオから流れる保守党党首(後の首相)マーガレット・サッチャーの演説を聞いています。
トビーのくわえたパイプから出たシャボン玉が、ゆっくり空に向かって浮いていくところで映画は、終わります。
映画を見た人の感想は、最低と最高のどちらかで中間が、なく両極端に分かれており、ウィートリー監督の感性とシンクロした方は、傑作と感じるでしょう。
私は、近いうちにもう一度見て自分の感性を確かめたいと思います。