ボーダーライン(後編) シネマの世界<第604話>

ケイトは、良心(モラル)の呵責と現場の悲惨な現実との狭間(ボーダーライン)で葛藤し苦悩します。
FBI女性捜査官ケイトを演じるイギリスの女優エミリー・ブラント、百戦錬磨のCIAエージェント マイク役の名優
ジョシュ・ブローリンが、秀逸な演技を披露しています。とくに注目すべきは、怪しげな謎の男(本当に国防総省アドバイザーなのか、コロンビアの元検事、コロンビア麻薬カルテルの代理人、アメリカ政府傭兵の殺し屋なのか‥)アレハンドロ役の名優ベニチオ・デル・トロで、彼が、狂気を帯びた目で敵を見据え容赦なく拷問し表情ひとつ変えず射殺して行く様は、凄味があります。
余談ながら私は、「チェ 28歳の革命」と「チェ 39歳 別れの手紙」で‘チェ・ゲバラ’その人になり切ったベニチオ・
デル・トロの秀逸な演技が、今でも忘れられません。「ボーダーライン」のプロットは、アメリカ国家にとって重要な政治・社会問題であるメキシコからの不法移民、麻薬密輸(ヘロイン・コカイン)、ドラッグ資金の洗浄(マネーロンダリング)を取り締まるアメリカ特殊部隊の活動(ミッション)が、常に超法規的な国家機密(極秘任務)として遂行されている現実を描いています。
だから、この映画「ボーダーライン」には、リアリティと緊張感にあふれどのシーンにも臨場感があります。
このリアリティと緊張感、臨場感をもった映画として、イラクでのアメリカ軍爆弾処理班を描いた映画「ハート・ロッカー」、CIAと特殊部隊シールズのアメリカ同時多発テロ首謀者ビン・ラディン殺害を描いた映画「ゼロ・ダーク・サーティ」が、あります。
メキシコの麻薬王抹殺(暗殺)というアメリカ国家の国益と謎の男アレハンドロの私怨(麻薬王に妻と娘が惨殺されていた)による復讐とが、一致したとき国境も善悪(法規)のボーダーラインは、ありませんでした。映画のラストで、ケイトのアパートにアレハンドロが、突然現れ「今回の捜査はすべて合法なものだった」という報告書にサインをするよう強要しました。
ケイトが、拒否するとアレハンドロは、彼女の喉元に銃を当て「ならば自殺したことにする」と脅しました。
屈辱の涙を流しケイトが、サインするとアレハンドロは、「お前にこの仕事は、ムリだ。小さな町へ引っ越し今回の事は忘れろ。」と言い残して分解した彼女の銃を置いて立ち去りました。ケイトは、組み立てた銃でベランダからアレハンドロの背中に銃口を向けます。
それを承知していたかのようにアレハンドロは、立ち止りゆっくりと振りかえり ‘お前から撃たれるなら仕方ない’ と死を覚悟した眼差しでケイトをじっと見つめました。

ビルヌーブ監督の次回作は、「ブレードランナー 2」だとか、今から待ち遠しく楽しみです。

