ダニー・コリンズ(Dearダニー 君へのうた) シネマの世界<第533話>
監督は、脚本家としてキャリアのあるダン・フォーゲルマン、この映画「ダニー・コリンズ(Dearダニー 君へのうた)」が、監督デビューの初作品(監督・脚本)です。
映画のプロットとなる1971年にジョン・レノンが、ダニー・コリンズに書いた43年前の手紙をめぐるストーリーは、実話に基づいています。
往年のロックスターである主人公ダニー・コリンズは、イギリス実在のフォークシンガー、スティーヴ・ティルストン(1950~)をモデルに脚色された人物です。
ビートルスを解散したばかりのジョン・レノンは、当時新人ミュージシャンであったスティーヴ・ティルストンの雑誌インタヴュー記事を読んで21歳の若者スティーヴ・ティルストンを励ますために書いた手紙(紆余曲折し34年目に本人に届いた実話)をもとにフォーゲルマン監督が、脚本を書き自ら監督しました。
フォーゲルマン監督の熱意にレノン財団は、映画のサウンド・ドラックをジョン・レノン楽曲のカヴァーではなく、ジョン本人のオリジナル曲使用を許可しました。
アル・パチーノ演じる往年のロックスター、ダニー・コリンズのライブ・シーンは、スーパーロックバンド「シカゴ」の協力を得て、ロサンゼルス‘グリーク・シアター’のコンサート会場に撮影カメラを配置、「シカゴ」のライブの途中、バンドの休憩時間に10分間で撮影したとか、その臨場感は、SFXにはないインパクトを感じました。
いまは落ち目のロックスター、ダニー(アル・パチーノ)は、贅沢(=金)のため昔のヒット曲だけを歌うコンサート・ツァーの繰り返しと酒浸り、ドラッグの常用、取換え引換えの女たちに囲まれた生活の毎日にウンザリしていました。
ある日、ダニーは、長年の友人でマネージャーのフランク(名優クリストファー・プラマー 1929~)から43年前にジョン・レノンが、ダニー宛てに書いた直筆の手紙を誕生日プレゼントとして贈られました。
その手紙には、「富や名声が、君の音楽をダメにすることはない。音楽を愛し続けることが大切だ。」と書かれていました。
虚しい日々に倦怠していたダニーは、「この手紙をあの時受取っていたらなら今よりマシな人生を送っていたはず‥」とマネージャーのフランクにすべてのコンサート・ツアーのキャンセルを依頼しフランクにさえ行き先を告げず予約もしていない小さなホテルに雲隠れしました。
そのホテルの支配人メアリー(名女優アネット・ベニング 1958~ 「キッズ・オールライト」ほか数多くの秀作映画に出演)、ホテルフロント女性のジェイミー(メリッサ・ブノワ 1988~ 「セッション」では主人公が好意を寄せる女性ニコル役)とダニーとの軽妙洒脱な掛け合いが、実に愉しく秀逸です。
若いころから人気ロックスターであったダニーは、酒とドラッグそしてセックスの日々、そのころの自堕落な生活の中で、自分の子供を妊娠し自分のもとを離れ、女手ひとつで子供(男の子)を育てた女性(すでに白血病で死亡)のことを思い出しました。
ダニーは、今まで会ったことも顔すら見たこともない息子トム(ボビー・カナヴェイル 1970~)に無性に会いたくなりました。
ダニーが、トムを訪ねると彼は、仕事に行き留守中ながら気立てのいい妻のサマンサ(ジェニファー・ガーナー1972~ 「ダラス・バイヤーズクラブ」の女医役)とかわいい幼い孫娘が、出迎えてくれました。
サマンサからダニーが、来ていることを聞いたトムは、自宅に飛んで帰り嫌悪しているダニーを父親として受け容れず追い返しました。
ダニーは、トムの留守中、度々訪れサマンサと孫娘と会い、不器用ながら一生懸命に尽くし愛情を捧げました。
そんなダニーに息子のトムも少しずつ頑なに拒絶する態度を改め、妻のサマンサにも秘密にしている自分の深刻な病気のことを彼に話しました。
やっと心開いた息子トムが、打ち明けた病気の話にダニーは、激しいショックを受けました。
トムは、母親と同じ白血病を患い治療していたのでした。
長編映画の監督デビューとは思えないくらいフォーゲルマン監督の脚本と演出が、すばらしく、とくに映画のラストシーンは、必見で一人でも多くの方にご覧いただきたいヒューマン映画の秀作です。 (公式サイトこちら)