深夜食堂 シネマの世界<第479話>
監督・脚本(共同)は、松岡錠司(1961~)、私の知らない映画監督ながらキャリアがあり、映画の‘見せ方’を良く知っている演出は、ときとして演出過剰と思えるシーンもありましたが、気になるほどのことでもなく、映画を三つのストーリー(オムニバス形式‥サブタイトルで「ナポリタン」、「とろろご飯」、「カレーライス」とクレジット)にして、小林薫演じる深夜食堂「めしや」のマスターを全部に登場させ一つに括るプロットは、なかなかの手腕と思いました。
人生の酸いも甘いも知り尽くし、左の顔に大きな傷痕を残す「マスター」は、彼の出自も過去も一切語られず、彼が相当の苦労人であることは、深夜12時から朝の7時過ぎまで開店している深夜食堂「めしや」に集まる様々な常連客やワケありの飛込み客に対する寡黙ながらも人情味厚い誠実な態度で察することができます。
映画の背景となる深夜食堂「めしや」の場所は、大都会東京のスキ間に、そこだけ昭和の面影をそのまま残したようなレトロな雰囲気の路地裏なので、たぶん新宿花園神社界隈の路地裏にある新宿ゴールデン街をイメージしたのではないかと思いました。
映画の舞台となる深夜食堂「めしや」の壁に貼られた色褪せたメニューにあるのは、豚汁定食・ビール・酒・焼酎だけですが、マスターに言えば、できるものなら何でも作ってくれる深夜食堂に集まる人々の‘群像劇’です。
「深夜食堂」には、主演の小林薫はじめ有名無名の俳優・女優が、大勢出演しています。
ベテラン女優では、余貴美子(1956~ マスターに好意を寄せる老舗料亭の女将役)、田中裕子(1955~ 「めしや」に元夫の骨壷を置いて消えた得体の知れない女役‥とぼけた演技に少し違和感あるのは、松岡監督の演出かも!?)など、俳優では、オダギリジョー(1976~ 交番の警察官役‥人の良い‘オマワリサン’を飄々と演じていて良かった)、同じく光石研(1961~ 部下の女性刑事にいつもツッコミを入れられる怖がりの刑事役)などが、脇を固めていました。
なかでも「とろろご飯」で、私の知らない若手女優ながら、マスター小林薫に拾われる新潟の家出娘を演じた多部未華子(1989~)が、瑞々しく中堅ながら名女優と呼べる永作博美のような演技のできる女優に成長して欲しいと思います。
「深夜食堂」は、台湾、韓国、香港、マカオ、フィリピンなどアジア各国でも一般公開されるそうなので、これを見たアジアの若者たちに日本映画ファンが増え、きっと日本を訪れる人たちも増えることでしょう。