浮き雲 シネマの世界<第384話>
アキ・カウリスマキ監督は、当初「浮き雲」の主人公‥失業のどん底から立ちあがる夫婦の役を前年の1995年に撮った「愛しのタチアナ」に出演した後、心臓発作で急死した名優マッティ・ペロンパーとアキ・カウリスマキ監督作品の常連女優カティ・オウティネンをイメージして映画のプロットを考えていました。
アキ・カウリスマキ監督は、突然亡くなった盟友マッティ・ペロンパーの死を悼み「「浮き雲」のクレジットで「マッティ・ペロンパーに捧ぐ」と敬意を表し、劇中夫婦の亡くなった子供の写真にマッティ・ペロンパーの子供時代の写真を使いました。
‘敗者三部作’の最初の作品「浮き雲」も当然アキ・カウリスマキ監督による監督・脚本・製作・編集で、撮影をティモ・サルミネン、美術マルック・ペティレとユッカ・サルミ、録音ヨウコ・ルッメ、衣裳トゥーラ・ヒルカモとアキ・カウリスマキ作品の常連スタッフが担っています。
ヘルシンキの有名レストランの給仕長イロナ(カティ・オウティネン)と彼女の夫で市長車運転手ラウリ(カリ・ヴァーナネン)夫婦は、慎ましく幸せに暮らしていました。
ある日、夫ラウリは、人員削減のためリストラされたことを妻イロナに言えませんでした。
一方、イロナの働くレストランも大手外食チェーン店に乗っ取られ、イロナも失業しました。
ラウリは、長距離観光バスの運転手の職を見つけますが、健康診断で片耳の異常が見つかり職どころか運転免許証まで取り消されてしまいました。
イロナが、やっと見つけた街角の安食堂の仕事も店主の不正な預かり所得税無申告(税金ネコババ)で、税務署から店の営業許可が、取り消されてしまいました。
イロナは、元同僚メラルティン(サカリ・クオスマネン)の提案で自分たちのレストランを開店することに挑戦することにしました。
レストラン開店の資金作りのために一攫千金を狙いラウリとイロナは、カジノに向かいますが全財産を失くしてしまいました。
そんな折イロナが、かって働いていたレストランの元経営者と偶然街の美容室で出遭い、イロナの語るレストラン開店の夢に資金援助を申し出ました。
イロナは、一緒に働いたレストランの元同僚たちをスタッフとして集め、夫ラウリをマネージャーにしました。
レストラン開店当日の朝、経営者のイロナが、不安そうに見守る中、しばらく来店客はありませんでした。
やがて一人また一人とレストランにお客が、やって来ました。
新しいレストランで活き活きと働く従業員たちを見てイロナは安堵し、ようやく未来に希望が持てました。
ひと休みするため店の外に出たイロナとラウリは、空を見上げ流れる浮き雲を幸せそうに眺めていました。