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心の時空

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そこのみにて光輝く  シネマの世界<第336話>

そこのみにて光輝く  シネマの世界<第336話>_a0212807_22592673.jpg函館出身の作家 佐藤泰志(1949~1990没 享年41才自死)の長編小説を原作とした映画「そこのみにて光輝く」が、天神KBCシネマで公開されています。
私が、今年になって見た2作目の日本映画ながら、すばらしい作品でした。
個人的な意見ですがカンヌ国際映画祭コンペティション部門に日本映画として出品したらパルムドール候補になりえる傑作映画と思います。
佐藤泰志が、小説の執筆に悶々しながら精神の病に苦しみ自死してから24年、無名であった彼の小説は、一度廃刊になりましたが、佐藤泰志の小説に登場する閉塞した社会の底辺で肩寄せ合って生きる人びと‥毎日、日々の暮らしに追われ、行き場を失いながら、明日もそこしか居場所のない人間を描いた彼の透徹したリアリズムは、いまも生活保護給付者が増え続ける日本社会を象徴しています。
そこのみにて光輝く  シネマの世界<第336話>_a0212807_2322525.jpg
十年くらい前から‘夭折の小説家 佐藤泰志’ を知る人たちにより、彼の小説が見直され復刊されました。
2010年、彼の絶筆短編小説集となった「海炭市叙景」が、佐藤泰志「海炭市叙景」映画製作実行委員会の手で映画化、「海炭市叙景」については、‘こちら’を参照いただくとして2014年4月、佐藤泰志の長編小説「そこのみそこのみにて光輝く  シネマの世界<第336話>_a0212807_23173332.jpgにて光輝く」が第2作目映画として公開されました。
映画の舞台は、「海炭市叙景」と同じ佐藤泰志が、生まれ育った函館です。
映画の企画・製作は、「海炭市叙景」と同じ菅原和博氏(函館の映画館シネマアイリス館主)で、彼が代表を務める佐藤泰志「そこのみにて光輝く」映画製作実行委員会が、総製作指揮しています。
菅原和博氏は、「そこのみにて光輝く」のメガホン(監督)を若手女性監督の呉美保(1977~ オミポ 三重県出身 そこのみにて光輝く  シネマの世界<第336話>_a0212807_23191356.jpg在日韓国人3世)に託しました。
主演するのは、綾野剛(1982~ 2011年「あぜ道のダンディ」のカメラ店店員)、池脇千鶴(1981~ 2013「凶悪」主人公の妻)、菅田将暉(1993~)の若手俳優三人‥彼ら三人が、それぞれ屈折した難しい役どころを呉監督の演出に立派に応えており「すばらしい!」の一言(主演男優賞・主演女優賞級の演技)です。
映画は、シリアスながらも儚く切ない男と女の愛、追い詰められて行き場のない家族の愛の物語です。
そこのみにて光輝く  シネマの世界<第336話>_a0212807_2321850.jpg石切り場の事故で同僚を失い自責の念で仕事を辞め、貯金で喰い繋ぎ無為徒食の日々を過ごす達夫(綾野剛)は、ある日場末のパチンコ店で粗暴ながら人懐っこい前科のある拓児(菅田将暉)に出遭います。
達夫は、拓児から「ウチに来い。メシ喰わせてやるから‥」と誘われるまま人里離れたバラック小屋に行くと無愛想な姉の千夏(池脇千鶴)を紹介されました。
千夏は、昼間食品加工場のパートとして働き、夜は場末のスナック(実は売春宿)で体を売って家族4人(脳卒中そこのみにて光輝く  シネマの世界<第336話>_a0212807_2326547.jpgを患い寝たきりの老いた父、アルコール中毒の老いた母、前科持ちで保護観察中の弟)の暮らしを支えていました。
寝たきりながら性欲旺盛な老いた父を田村泰二郎(1948~「状況劇場」出身)、その世話に疲れアルコール中毒の老いた母を伊佐山ひろ子(1952~)、達夫を現場に復帰させたい元上司に火野正平(1949~ 事故に遭った達夫を何かと気遣う渋い演技が秀悦)、千夏の愛人を高橋和也(1969~)が、しっかり脇を固め、日本社会の底辺に横たわるシリアスな現実をリアそこのみにて光輝く  シネマの世界<第336話>_a0212807_23322325.jpgリズム溢れる表現力で演じています。
函館出身のミュージシャンあがた森魚 (1948~)もワンシーンながら出演、うれしくなりました。
「海炭市叙景」は、冬の函館を舞台にしていますが、「そこのみにて光輝く」では、函館の短い夏が舞台です。
名作映画には、上質な脚本、才能ある監督、演技力のある俳優この三要素が不可欠ながら、これに加え「海炭市叙景」の撮影監督であった近藤龍人(1976~)が「そこのみにて光輝く」でも撮影監督を担っています。
そこのみにて光輝く  シネマの世界<第336話>_a0212807_2333859.jpg撮影カメラは、函館の哀感ある美しい情景と併せエキストラで映画に参加した函館市民の自然な佇(たたず)まいもリアルな映像で捉えていました。
エンドロール最後に映される「そこのみにて光輝く」の映画タイトルは、佐藤泰志の原稿に書かれた自筆文字を写したもので、彼の少し角張ったクセのある書体も印象に残りました。(上写真: 左 菅原和博プロデューサーと、右 呉美保監督)
by blues_rock | 2014-04-30 00:30 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)
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