ハンナ・アーレント(前編) シネマの世界<第293話>
私は、先週末福岡市天神のKBCシネマで見ましたが、精神を強靭(きょうじん)にしてくれる秀作映画ですので、ぜひ一人でも多くの人にご覧いただきたいと思います。
ハンナ・アーレント(1906~1975没、享年69才)は、ドイツ生まれのユダヤ人でナチスの迫害でドイツを脱出、アメリカに亡命しアメリカを代表する哲学者・社会思想家となった女性です。

ドイツの女優バルバラ・スコヴァが、演じるハンナ・アーレントの存在感は、正にハンナ・アーレントその人ではないかと思えるくらいレアリティがあり、マルガレーテ・フォン・トロッタ監督の演出も、ニュー・ジャーマン・シネマの

映画は、ナチスの将校で600万人ともいわれるユダヤ人虐殺を指揮した戦争犯罪人アイヒマンが、逃亡先のアルゼンチンでイスラエルの諜報機関モサドに逮捕、拉致されるところから始まります。
ハンナ・アーレント自身もドイツ系ユダヤ人でありナチスから迫害を受け、ユダヤ人強制収容所での虐殺を逃れ、辛うじてドイツを脱出、アメリカに亡命しました。

彼女自身もユダヤ人強制収容所での悲惨な過去を経験しているので、夫や友人たちは、皆反対しますが、ハンナは、哲学者として悪魔の仕業としか思えないホロコースト(大量虐殺)を行なったアイヒマンの生の姿を観察し

私が、映画を見て感じたハンナ・アーレントの頭脳の明晰さ、聡明さは、「人間のリアリティを‘大量虐殺を犯したナチスの将校もまた私たち自身のように人間’であったということだ。つまり悪夢は、人間が‘何をなすことができるか’ということを彼ら(ナチス)が、疑いなく証明したということである。言いかえれば“悪の問題”は、ナチスの犯罪を体験した戦後ヨーロッパの知的生活の根本問題となるだろう。」と明解に指摘したことにあります。

ユダヤ人虐殺を行なったナチス将校アイヒマンを絶対権力者(ヒトラー)の言われるまま思考停止して行なった‘凡庸な悪’と定義、そして何も考えずに実行する‘悪の凡庸さ’こそ【究極の悪】であると定義づけました。


