太陽の帝国 シネマの世界<第288話>
スピルバーグ監督(1946~)の撮るヒューマンな映画もすばらしいと思いますが、不条理な戦争に巻き込まれ、理不尽な暴力の犠牲となる善良な人々を主題とした戦争リアリズム映画にスピルバーグ監督の傑作がたくさんあります。1987年映画「太陽の帝国」(Empire of the Sun)がその最初の傑作です。
「太陽の帝国」は、イギリスの名優クリスチャン・ベール(1974~)が、長編映画デビューした作品で、クリスチャン・ベール13才の時でした。
スピルバーグ監督は、映画の主人公となる上海で生まれ育ったイギリス人少年ジミー役に4千人のオーディションを行ない当時13才のクリスチャン・ベールを選びました。
映画を見ているとジミー少年は、当時のクリスチャン・ベールをモデルにしたのではないかと思えるくらいジミーとクリスチャンのイメージが、ダブリました。

共演者では、無頼のアメリカ人ベイシーを演じた名優ジョン・マルコヴィッチ(1953~)、日本軍ナガタ軍曹役の伊武雅刀(1949~)、特攻隊の少年役片岡孝太郎(1968~)などがイギリス人少年ジミー役のクリスチャン・ベール
と絡み、いずれ劣らぬ名演技でスピルバーグ監督の演出に応えリアリティを出しています。太平洋戦争末期、上海が租界であったころの雰囲気を残した旧市街に数千人の中国人エキストラを動員し当時の情景をリアルな映像で撮影した非常に見応えのある戦争映画です。
外国人監督の撮る日本の風俗や日本人の登場する映画には、チンケな日本の風俗か奇妙な日本人しか登場
せず、ロクなものしかありませんが、「太陽の帝国」では、スピルバーグ監督の緻密な映像で撮影され、日本人が奇妙に誇張されることなく描かれた希有な作品です。上海のイギリス租界地にある邸宅で中国人使用人に囲まれ何不自由なく暮らし、敵国日本の零式戦闘機(ゼロ戦)に憧れるイギリス人少年ジミーが、やがて戦火に巻き込まれ、両親と放れ離れになり、日本軍の捕虜として劣悪な環境と過酷な試練の中で生き抜いて成長していく物語です。
スピルバーグ監督作品の音楽監督を担当する盟友ジョン・ウィリアムズ(1932~)の音楽も美しく映画の感動を盛りあげています。「太陽の帝国」は、クリスチャン・ベール少年の初々しくも見事な演技が、必見の映画です。

