ブリューゲルの動く絵 シネマの世界<第197話>
まず、北方ルネッサンス、フランドルの画家ピーテル・ブリューゲル「十字架を担うキリスト」(1564年 ウィーン美術史美術館蔵 124×170cm 下の絵)をご覧ください。
映画「ブリューゲルの動く絵」は、この一枚の絵がベースです。
ブリューゲルについてはこちらをご覧ください。
この映画の監督・脚本・撮影・音楽・編集をポーランドの鬼才 レフ・マイェフスキ(1953~舞台演出家・詩人)が、一人で担い‘映像芸術’のような映画です。
美術批評家マイケル・フランシス・ギブソンが、マイェフスキ監督の映像を見て感激し、ブリューゲルの「十字架を担うキリスト」を分析した美術論文「風車と十字架」をマイェフスキ監督に贈りました。
映画は、絵をなぞるように淡々と16世紀のフランドル地方で暮らす村人たちの暮らしを描いています。
いまから400年前のフランドル地方(現在のベルギー)にタイムスリップしたようで、ブリューゲルの絵から抜け出して来たような当時の人々の古色蒼然とした服装、食べ物、日用品、立ち振る舞いまで克明に調べあげ、当時の暮らしを忠実に再現しています。
映画を見ている私は、タイムマシンから400年前のフランドル地方の暮らしを見ているような錯覚を覚えました。
マイェフスキ監督は、最新のCG技術と3Dエフェクトを駆使し、ブリューゲルの絵と映像を一体化した“摩訶不思議な世界”を映画で表現しました。(予告編はこちら)
ブリューゲルを演じるのは、オランダの名優ルトガー・ハウアー(1944~)、ブリューゲルの妻にして聖母マリアをイギリスの名女優シャーロット・ランプリング(1946~「愛の嵐」は女優としての最高傑作)が、演じています。
映画に登場する人たちのほとんどが、エキストラ出演ながらマイェフスキ監督の演出に忠実に応えた自然な立ち振る舞いは見事です。
映画は、ブリューゲルの絵「十字架を担うキリスト」のとおりフランドルの牧歌的な農村風景をバックに十字架を背負いながらゴルゴダの丘へ向かうキリストと、聖母マリア、シモン、ユダ、最後の晩餐、鞭打ち刑、磔刑が、描かれた自作の絵を眺める画家ブリューゲルを描いています。
映画の最後、映画を見ていた者は、いつの間にかウィーン美術史美術館のブリューゲル「十字架を担うキリスト」の絵の前におり、摩訶不思議な世界から還ったような夢から覚めたような不思議な気持ちになるでしょう。