ソハの地下水道 シネマの世界<第171話>
ポーランドの女性映画監督アニエスカ・ホランド(1948~)の2012年映画「ソハの地下水道」は、ポーランドを侵略支配したナチスドイツのユダヤ人迫害からユダヤ人家族の命を守る羽目になったポーランド人地下水道作業員の物語です。ポーランド映画では、アンジェイ・ワイダ監督(1926~)が、とくに有名で「地下水道」(1956)・「灰とダイヤモンド」(1958)は、世界の映画史に残る名作です。
アンジェイ・ワイダ監督の映画では、ポーランドを抑圧するのは、ソ連とクレムリンの手先である共産主義者たちでした。
ポーランドは、他の東欧諸国と同じように、常に大国(ドイツプロイセン帝国、帝政ロシア、ナチスドイツ、ソ連)に侵略され、そのたびに国土を割譲され圧政に喘いできました。
二人の監督に共通するのは、祖国を抑圧する軍事権力への抵抗の意思とポーランド民族と社会に対するリアリズムです。
「ソハの地下水道」の舞台は、ナチスドイツに占領された旧ポーランド領(現ウクライナ領)ルヴフという地方都市で、ユダヤ人を強制収容所へ送るまで隔離するゲットーがありました。

ソハの稼ぎでは、家族を養うことができず、彼は、若い同僚と金持ちの家に泥棒に入り金品を盗んでいました。
ある日、盗みに入った家で、強制収容所行きを逃れようと床に穴を掘り、地下水道へ脱出しようとしているユダヤ人たちに出遭いました。

場合によっては、口止め料だけせしめた後、通報すればよいとの考えもありました。
ソハには、迷路のような地下水道も熟知した場所なので、ユダヤ人たちを匿(かくま)うくらい朝飯前と思ったも
のの、老人や女子供を匿うのは、簡単ではありませんでした。汚物や屍体が浮かび悪臭のする地下水道は、ネズミが這いまわる暗闇で、ナチスドイツの虐殺から逃れ暮らすうちにユダヤ人たちの中に恐怖と悪環境によるストレスで軋みが、出てきました。
やがて、ソハの周辺にも少しずつ危険が、迫って来ました。
ホランド監督もユダヤ系ポーランド人で、父方の祖父母をワルシャワのユダヤ人ゲットーで亡くしていますが、自作映画の「ソハの地下水道」では、感情的な演出を排し、ナチスドイツに迫害され抑圧されたポーランド人も、彼らの目の前で虐殺されるユダヤ人も、地上と地下の明暗をリアルに表現しています。

