蝶の舌(前編) シネマの世界<第160話>
映画を見る者は、幼いモンチョ少年の混乱した悲しい心を思い絶望感に襲われます。
ファシスト党民兵に拘束され、トラックで移送されて行くグレゴリオ先生を悲しい顔で見送るモンチョ少年の顔が、スクリーンに大映しになりストツプ、やがてモノトーンの映像となりエンドロールになります。
「蝶の舌」のサウンドトラックを担当したアレハンドロ・アメナーバル(2004年スペイン映画の傑作「海を飛ぶ夢」の監督・製作総指揮・脚本・編集・音楽)作曲の音楽が、少年の悲しい表情とシンクロしたエンドロールを見ていると余計やりきれなくなります。
映画「蝶の舌」は、「精神の自由と解放」・「家族の愛」・「社会の正義と不条理」・「憎悪・裏切り・卑怯卑劣」など人間の内在する普遍を表現した作品として映画史に残る名作となるでしょう。
ホセ・ルイス・クエルダ監督(出自の詳細不明)は、1936年に始まるスペイン内戦の悲劇を「蝶の舌」では、美しい牧歌的な映像を駆使しながら感傷的にならずクールに、映画を見た者が、虚無感に苛(さいな)まれるくらい辛辣で残酷な人間の争いを映画にしています。
スペインの正義と自由を願う共和派(反ファシズムの自由主義者)のグレゴリオ先生を演じるフェルナンド・フェルナン・ゴメス(1921~2007)と8才の無垢な少年モンチョを演じるマヌエル・ロサノ少年、この主役二人が、実にすばらしく、演技とは思えないくらい自然な存在感を出しています。
グレゴリオ先生は、子供たちにオーストラリアに棲むティロノリンコという鳥が、繁殖期になるとメスに蘭の花を贈ることや蝶には、細くてゼンマイのように巻かれた舌があり、普段は隠れてみえないけれど、花の蜜を吸う時に舌を伸ばすことなど自然の不思議と驚異を教えました。(後編に続く)