汚れつちまつた悲しみに 詩:中原中也
早熟であった中原中也は、16才の時、女優志望19才の長谷川泰子(1904~1993)と京都で出会い、二人は恋に落ち同棲しました。
1925年春、二人は上京、小林秀雄(文芸評論家1902~1983)に出会いました。
長谷川泰子は、中原中也の破滅的で攻撃的な(とくに酒癖が悪い)性癖に愛想を尽かし、知的で好男子の小林秀雄に魅かれ、やがて二人は、相思相愛の仲になりました。
中也と別れた泰子は、小林秀雄と暮らし始めました。
中原中也の‘ファム・ファタル(運命の女性)’であった長谷川泰子への未練は強く、中也は泰子と別れた後も小林秀雄宅を訪ね、三人の交友は続きました。
中原中也は、結核性脳炎を患い30才で夭折しましたが、生涯350篇余の詩を書き残しました。
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汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる
汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の皮裘(かはごろも)
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠(けだい)のうちに死を夢む
汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気(おじけ)づき
汚れつちまつた悲しみに
なすところなく日は暮れる