似て非なるもの ‥ ザ・ブルーハーツ とセックス・ピストルズ
「人にやさしく」は、1987年リリースなので、その頃のことだろうと思います。
テレビ画面下の隅に小さく「ザ・ブルーハーツ」とクレジットされた文字で、このバンドの名前を初めて知りました。
ザ・ブルーハーツのロックを初めて聴いた時の印象は、キレのあるタテのりエイト・ビートの疾走感からラモーンズのロックに似ていると思いました。
後日、ライブの映像を見ると、セックスピストルズのライブ・パフォーマンスにも似ており‥甲本ヒロトとジョニー・ロットンの何かにとり憑かれたような表情もどこか似ていて、しばらくブルーハーツは和製パンク・ロックバンドとばかり思い込んでいました。
しかし、それは私の間違いであったことが、1988年LPアルバム「トレイン・トレイン」を聴いて分かりました。
セックスピストルズ(1976~1978)の活動は、一年半でLPアルバム「勝手にしやがれ!!」(1977)を一枚残し、アメリカツアー中にヴォーカルのジョニー・ロットンが、脱退し解散してしまいました。
反抗的・反社会的な言動や態度、アルバム「勝手にしやがれ!!」収録の「アナーキー・イン・ザ・U.K.」の反キリスト教、「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」の王室批判など過激な歌で、当時失業と貧困に喘(あえ)ぐ労働者階級の若者たちのヒーローになったバンドでしたが、メンバーのアナーキーさは、自らのバンドも破壊してしまいました。
奇異な風俗、異様な外見(パンク・ファッションとヘアースタイル)を強調したパンクなパフォーマンスで一世を風靡しましたが、歌も演奏もヘタで‥ヘロインやコカインなどの薬物中毒でいつもメロメロであったシド・ヴィシャスのベースは、アンプに繋がれていなかったそうです。
ザ・ブルーハーツもルックスから一見パンク風にも見えますが、楽曲を聴くと分かるように「チェルノブイリ」での反核メッセージ、「1985」の反戦、「リンダリンダ」・「人にやさしく」・「トレイントレイン」・「青空」・「情熱の薔薇」・「夕暮れ」など恋人・弱者・敗者への共感メッセージ(やさしさ)が、ザ・ブルーハーツ・ロックの原点と思います。
ブルーハーツの詩(歌詞)は、2001年NHK教育TV番組 人間講座の「言葉の力・詩の力」で取り上げられ、彼らの詩の文学性が、高く評価されていました。
私が、とくに感心するのは、歌詞の中で、恋人や友達や仲間への眼差しの言葉が、常に「あなた」であることです。
自分の大切な人たちに対し「おまえ・君」とくだけた言葉ではなく、まして品性ない暴力的な言葉とは一線を引き、相手がダレであれ「あなた」と呼びかけ、「あなた」がいてくれて「ぼく」がいる世界が、ザ・ブルーハーツのロックでした。
それが、セックス・ピストルズような乱暴なパフォーマンスで、無秩序に破壊することだけを歌うパンク・ロックとの決定的な違いでした。
ザ・ブルーハーツについては、2011年9月16日のブログ「ザ・ブルーハーツ‥人にやさしく」で、すでに書きましたのでご覧いただけると幸いです。