平山は、いつも昼食時間になると 公園近くの神社のベンチに座り、コンビニで買ったものを食べ、境内の巨木を見上げ、その樹々の葉の隙間から射す 木洩れ陽を見て笑みを浮かべ、旧式のポケットカメラで、モノクロ写真を撮るのが、趣味でした。
一緒に働く若い清掃員タカシ(柄本時生 1989~)は、どうせすぐ汚れるのだからと適当に仕事し、熱をあげているガールズバーのアヤ(アオイヤマダ
2000~)に夢中、金が、ないといつも愚痴っています。
平山は、それに意も介さず 無言で 自分の持ち場のトイレを ただ熱心に清掃していますが、誰ひとり気付くものは、いません。
平山とすれ違う街の人たちは、彼の存在など意にも介していませんが、時おり出遭うホームレスの老人(田中泯 1945~)は、平山と目を合わせます。
一日の仕事が、終わると浅草の銭湯で汗を流し 地下鉄浅草駅地下商店街の食堂で食事を済ませ、家に帰ると布団に入り、眠くなるまで本を読みます。
眠りに落ちた平山の脳裏には、その日、目にした光景が、ゆらゆら浮遊し、樹々の揺れる枝や葉翳から漏れる陽の光りと重なって映し出されています。
休日には、行きつけの古本屋へ行き、百均の文庫本を一冊買い、その帰り小さな居酒屋で 客に求められ唄う女将(石川さゆり 1958~)の歌(浅川マキの「朝日楼」=「朝日のあたる家」のカヴァー)に耳を傾けたりしています。
ワンシーンの ワンカットなので 気付いた人は、少ないのではと推察しますが、カウンターの隅で ギターを弾くのは、常連客役の あがた森魚です。
平山が、アパートに帰ると姪のニコ(中野有紗 2005~)が、階段で待っていました。
平山は、子供の頃に会って以来久しぶりなので、立派な娘に成長した妹(麻生祐未1963~)の娘ニコが、すぐに分かりませんでした。
家出して来た姪のニコに戸惑いますが、黙って泊めてあげました。
翌朝早く、いつもの通り、そっと仕事に出かけようとすると ニコに気付かれ一緒にトイレ清掃の現場へ行くことになりました。
一生懸命公衆トイレの清掃をする伯父平山の姿を じっと見ていたニコですが、自分も手伝いたいと言い始めました。
平山は、ニコと静かな楽しい時を過ごしますが、意を決して長年会っていなかった妹へ連絡、やがてニコを迎えに来た妹と再会することになりました。
妹との再会で 平山は、自分の過去と向き合うことになりますが、姪のニコは、自分から平山へ近づき「また家出してくるね」と強くハグして別れますが、妹は、立ち尽くすだけで動けないでいました。
平山は、妹(麻生祐未の表情の硬さが、秀悦)に近づき強くハグしてあげ別れました。
帰る二人を見送った平山が、嗚咽するシーンは、胸に沁みてもらい泣きしました。
撮影監督 フランツ・ルスティヒ(1967~)の ドキュメンタリーを撮るようなカメラワークが、見事です。
映画全編に 今や東京のシンボルとなった スカイツリーの光景(ショット)が、読んでいる本のページをめくるように シーンの変わり目に 16回登場します。
主人公の名前の平山は、小津監督作品によく登場する主人公の名前で、その平山が、姪っ子の少女と公園のベンチで食事するときの カメラアングル
と 構図の相似形、同時に飲み物を飲む動作は、敬愛する小津安二郎監督へのオマージュと思います。
小津哲学とも云える「人生への無常観」と「人間のもつ寂寥感」を「木洩れ陽の光と影」で表わす ヴェンダース監督の見る者への メッセージは、さすが!の一言です。