1976年「タクシードライバー」、1977年「ローリング・サンダー」、1980年「
レイジング・ブル」と不朽の名作を発表し続けた名匠 ポール・シュレイダー監督(1946~)の最新作(2017年作品、脚本・監督)「魂のゆくえ」(原題「First
Reformed」映画の舞台となる旧いキリスト教会の名前)が、現在KBCシネマで公開されています。
ポール・シュレイダー監督は、たぶん(私の想像ながら)キリスト教義にある「七つの大罪」、傲慢(高慢)、憤怒
(激情)、嫉妬(羨望)、怠惰(堕落)、強欲(貪欲)、暴食(大食)、色欲(性欲)にプロットのヒントを得て(インスパイアされて)撮った作品ではないかと私は、推察します。
そのシュレイダー監督による ‘スピリチュアルなサスペンス’ 心理ドラマ「魂のゆくえ」の演出(脚色)を撮影のアレクサンダー・ダイナン(プロファィル不詳)が、エッジを効かせた映像でシャープに捉えています。
主演の名優 イーサン・ホーク(1970~)は、期待に違(たが)わぬ ‘スピリチュアルな演技’ で、設立250年の旧い教会の牧師が、背負う「憤怒(激情)」と「暴食(「魂のゆ
くえ」では 暴飲)」を秀逸に演じ、2015年主演の映画「
リグレッション」で演じたスピリチュアルな刑事役を彷彿とさせる演技で牧師の役を名演しています。
これまで美人若手女優として人気が、あったアマンダ・セイフライド(1985~、私の記憶に残るのは、2010年「
親愛なるきみへ」)は、これまでの‘純愛映画のヒロイン’のイメージを払拭し、生活に疲れた三十代の女性を好演しています。
アマンダ・セイフライドは、「リグレッション」で、イーサン・ホークと共演したエマ・ストーン(1988~)と目の印象が、よく似ているので、私は、時おり二人の出演した映画が、頭の中で混乱します。
「魂のゆくえ」のストーリーについては、<ウィキペディア>に掲載されていた説明が、一番コンパクトで的確でしたので引用し私が、少し修正加筆して掲載しています。
ニューヨーク州の小さな教会で牧師を務めるトラー牧師(イーサン・ホーク)は、自分の信仰と思想を教会の年報に掲載する記事のために書いていましたが、満足できず破り捨てました。
トラー牧師は、元従軍牧師でしたが、息子ジョセフをイラク戦争で失くし軍を退役しました。
息子ジョセフに自分が、入隊を勧めて死なせたというトラー牧師の悔悟と苦悶、消えない自責の念は、悪化する持病の内臓疾患(胃ガンの疑い)と相俟って酒量が、増えていました。
そんなある日、トラー牧師は、信徒のメアリー(アマンダ・セイフライド)から夫マイケルに会って欲しいと依頼されました。
過激な環境保護活動家の夫マイケルは、メアリーの出産に反対し中絶するよう勧めていると打ち明けました。
マイケルは、トラー牧師に環境破壊による気候変動によって地球が、生存不能の過酷な環境になっている、今やもう元には、戻れないので生まれてくる子供を苦しませたくないのだと答えました。
メアリーは、夫が、製造し隠していた自爆用の爆弾をガレージで発見し驚きました。
連絡を受けたトラー牧師は、マイケルと会うことにしました。
トラー牧師が、彼から指定された公園に向うとショットガンで頭を撃ちぬいたマイケルの遺体を発見、彼の遺骨は、彼の遺書により環境破壊の象徴であった巨大企業の産業廃棄物が、投棄さ
れる最終処理場近くの汚染された海に散骨されました。
その頃、トラー牧師が、所属する教会本部では、設立250周年を祝う式典の準備が、着々と進んでいました。
式典には、地元市長や知事を始め各界から名士たちが、多数参列、その中に教会活動資金の大口提供者である巨大企業でマイケルの抗議行動相手であった会社オーナーの名前もありました。
トラー牧師に芽生えた世界の行く末を悲観し自殺したマイケルの魂を救えなかったとの悔悟の念は、自らの信仰の実践と人生への価値観を大きく変えました。
トラー牧師は、胃ガンの悪化もあり亡きマイケルが、実践しようとしてできなかった人間の「傲慢(高慢)」と「怠惰(堕落)」に対する自爆テロ(贖罪)を自分の教会で開催される設立250周年祝典セレモニーの席で実行することにしました。
映画エンディングのトラー牧師とメアリーとの長いキス・シーンは、昇華された「色欲(孤独な性本能)」の象徴としてシュレイダー監督が、描いた「イエス・キリストとマグダラのマリアへのオマージュ」のように私は、思いました。
(備考) 青文字部分を クリックすると過去に掲載した記事に飛びますので、よかったらご参考にしてください。