呼吸 ~ 友情と破壊 シネマの世界<第726話>
アンスティチュ・フランセ(本部 パリ)は、世界中の支部(日本に5都市、九州は福岡にある)と一般劇場で上映しないような作家性の強い個性的な映画や若手で才能ある新進気鋭の監督作品をインターネットで繋ぎ上映しています。
5月の作品は、フランスを代表する美しき名女優メラニー・ロランが、監督した新作「呼吸 ~ 友情と破壊」でした。
ロラン監督は、「自己愛の強い倒錯者(精神疾患のひとつ「自己愛性人格障害」)のことを描きたかった」という映画のプロットを見事に表現したすばらしい作品でした。
メラニー・ロランは、まだ34歳、女優として今までに20作品以上の映画に出演しており早やベテラン女優の風格すらあります。
映画づくりのキーとなる演出は、メラニー・ロランが、これまで出演した数多くの作品の名立たる名監督から学んだのか、女優としての演技センスと相俟って映画監督としての才能を一気に開花させました。
メラニー・ロラン監督の演出が、実に冴えています。
映画は、主人公の高校生の少女二人が、青春を謳歌しながらお互い友情を感じていくところから始まりホラーのような不気味な雰囲気を次第に漂わせていきます。
才気あふれるロラン監督の演出とそれを追うハンディ・カメラで撮影した映像が、秀逸です。
主人公は、控えめでおとなしいどこにでもいるような女子高生のシャルリ(ジョゼフィーヌ・ジャピ 1994~ 2011年映画「マンク~破戒僧」の少女役で出演)と美しく個性的な転校生サラ(ルー・ド・ラージュ 1990~)の二人です。
シャルリは、サラと友情を深めるうち、彼女の自由奔放な言動と謎めいた生活に興味を覚えて行きました。
サラは、シャルリのそんな心の内を見透かすようにシャルリの家を頻繁に訪ね、控えめなおとなしいシャルリの生活にあれこれ指図し、やがてサラが、内向的なシャルリの悩みである彼女の家庭内問題(両親の諍い)にも口出しするようになるとシャルリは、サラの存在が、疎ましくなりました。
次第にサラの潜在的な精神疾患「自己愛性人格障害」である虚言と妄想、暴力的な加虐性癖(サディズム)が、シャルリを翻弄、彼女の内向的な性格ゆえの被虐性向(マゾヒズム)に容赦なく向けられて行きます
ロラン監督の演出に応えた若い女優の二人、とくにサラを演じたルー・ド・ラージュの華やかでやさしげな表情からサディスティックな顔に一瞬(ワンカット)にして切り替える演技力、ならびにシャルリを演じたジョゼフィーヌ・ジャピの抑え切れなくなった表情(とくに内に秘めた怒りの表情)と抑圧した感情の衝動が、一瞬にして狂気と化す演技は、ともにすばらしく今後の活躍が、大いに期待されます。
シャルリの母親を演じたイザベル・カレ(1971~ 1999年「クリクリのいた夏」に出演)も地味ながら自己愛の強い倒錯者(自己愛性人格障害)の夫に泣きながら従う被虐性(マゾヒズム)の妻ぶりも見事でした。 (上写真 : 撮影中のメラニー・ロラン監督)