永遠のジャンゴ シネマの世界<第790話>
コマール監督の脚本・演出は、当然ながら、ベルギーの撮影監督 クリストフ・ボーカルヌ(1965~)の映像、オーストラリアの音楽監督 ウォーレン・エリス(1965~)ならびにジャンゴ・ラインハルトのマヌーシュ・スウィング遺伝子を受け継いだオランダのローゼンバーグ・トリオ(1989~)の演奏(劇中に流れる楽曲すべて演奏)が、これまた秀逸です。
映画「永遠のジャンゴ」をご紹介する前にマヌーシュ・スウィング・ジャズとフランス・ホットクラブ五重奏団(1934~1948)の中心であったジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリ(1908~1997没、享年89才)について語らなければ、彼らが、生きた当時の過酷なヨーロッパ社会のリアリティも彼らの音楽的な価値も感動も分からないだろうと推察し少し述べたいと思います。
ジャンゴ・ラインハルトのオリジナリティ豊かな天才的ギター・テクニックは、後のブルースやロックの天才ギタリストたちB.B.キング、ジミ・ヘンドリックス、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、カルロス・サンタナたちが、影響を受け、ステファン・グラッペリの情感豊かなヴァイオリンの音色は、クラシックの名ヴァイオリニスト メニューヒンや名チェリストのヨーヨーマの演奏に取入れられています。
ところで、マヌーシュとは、フランス中北部やベルギー・オランダで暮らすジプシー(ロマ民族)のこと、マヌーシュ・スイング・ジャズは、ミュゼットというアコーディオンによる彼らのダンス音楽(ワルツ伴奏)とスイングが、融合して誕生したものです。
さて、映画「永遠のジャンゴ」に話を戻して主人公のジプシー(ロマ)であるジャンゴ・ラインハルトを演じるのは、フランスの名優 レダ・カティブ(1977~、2009年「預言者」、2014年「ヒポクラテス」、2015年「孤独の暗殺者 スナイパー」など渋い演技が魅力)で、ユダヤ民族とロマ民族の絶滅(ジェノサイド)を謀るナチスドイツ高官に取り入り身を挺してジャンゴと彼の家族を護ろうとするジャンゴの愛人ルイーズをフランスの名女優 セシル・ドゥ・フランス(1975~、2007年「ある秘密」、2010年「ヒア アフター」、2011年「少年と自転車」など)が、好演しています。
ざっくり物語を解説すると1943年ドイツ軍占領下のパリでミュージックホールの人気を一人占めにしていたジャンゴ・ラインハルトに目をつけたナチスは、彼をプロパガンダ(大衆扇動)に利用しようと画策しました。
ジャンゴは、「オレたちロマ(ジプシー)は、戦争などしない。ミュージシャンとして演奏するだけだ。」とナチスへの協力を拒否しますが、ナチスの残酷さをよく知っているルイーズは、ヨーロッパ全域でロマ(ジプシー)が、弾圧され虐殺されていること(事実)を伝え、ジャンゴに家族とスイスへ逃亡するよう強く促しました。
逃亡の途中やがて、ジャンゴは、目の前で理不尽に虐待され虫けらのように殺戮されていく同胞を見てレジスタンスに協力するようになりました。
ジャンゴが、理不尽にナチスに虐殺された同胞ロマに捧げる即興の自作レクイエム(音源と譜面の一部分しか残されていない鎮魂歌)をレマン湖ほとりの教会のパイプオルガンで弾くシーンは、パイプオルガンの荘厳な音色と相俟って彼の苦悩と悲痛な哀しみが、ひしひしと見る者の心に伝わってきます。