ゴッホ ~最期の手紙~ シネマの世界<第787話>
ドロタ・コビエラ監督は、この「ゴッホ ~最期の手紙~」(原題「Loving Vincent」)が、長編映画デビューながら、その才能を至るところで感じます。
コビエラ監督の演出は、私が、長年疑問に思っていることと同意見(「ゴッホの自死と耳切り事件 ~ その真相」)で、精神を病んでいるとはいえ人生で最も充実し多作な時期(ゴッホの代表作が集中している)に自殺するとは、考えにくくコビエラ監督は、何か偶発的な事故による死(他殺死という仮説)ではないかと推察しています。
映画のプロットは、ゴッホが、死ぬ一年前、弟テオに書いた ‘最後の手紙’ を預かっていたゴッホの友人で郵便配達夫の父ジョゼフ・ルーランからパリに住む弟のテオへ届けるよう依頼された主人公の青年アルマンが、最初は、父親から命じられて不承不承(ふしょうぶしょう)でしたが、手紙を渡す相手の弟テオも亡くなり(兄ヴィンセントの死から半年後病死)、生前のゴッホを知る(絵のモデルになった)人たちに会ってゴッホの話(実像)を聞くうちにゴッホ謎の自死(ピストルで腹を撃って自殺)の真相を探るミステリーと偉大な天才画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホへのオマージュです。
このアニメーション映画の特筆すべき特長は、何といっても ゴッホの絵に描かれたモデルたち(ゴッホを知る人たち)、室内や風景が、ゴッホの筆のタッチと色彩そのままに油絵のアニメーションとして表現されていることです。
コビエラ監督は、まず俳優を使いゴッホの絵と同じ構図を実写で撮影その映像をもとにゴッホの絵の特訓を受けた125人の画家(日本人画家の古賀陽子さんもその内の一人)たちにゴッホのタッチそのままの油絵で1秒12コマ、尺1時間36分、計6万2、450枚のトレース画を描かせロトスコープ(VFXアニメーション技術)によるアニメーション映画にしました。
登場人物の実写キャストで私が、知っている俳優は、ガッシュ医師の娘マグリットを演じたイギリスの女優シアーシャ・ローナン(1994~)だけでしたが、ゴッホを演じた俳優ロベルト・グラチーク(プロファィル不詳)は、ゴッホの自画像に良く似ていて印象に残りました。
ロトスコープ(アニメーション)映画「ゴッホ ~最期の手紙~」が、楽しかった方には、ポーランドの鬼才レフ・マイェフスキ監督(1953~)の2011年作品「ブリューゲルの動く絵」も大いに楽しめると思います。
来年早々には、ゴッホの自画像をからかいゴッホ耳切り事件のキッカケをつくったゴーギャン(ヴァンサン・カッセル 1966~)の人生を描いたフランス映画「ゴーギャン、楽園への旅」が、封切られますのでこれも楽しみにしています。