中国の名匠 ジャ・ジャンクー監督(後編) シネマの世界<第776話>
さて、2008年作品「四川のうた」は、四川省成都市の閉鎖した国営軍事工場を舞台(かって10万人が働いていた)に、そこで働いていた10人の労働者にインタヴューするドキュメンタリーのような映画です。
「四川のうた」に出演した俳優のほとんどが、皆な素人で、その‘素の個性’そのままにジャ・ジャンクー監督は、彼らに演技させ、そのシーンを長回しで撮るジャンクー監督の演出手腕(映画制作の力量)が、実に秀逸でその演出の見事さに感心
しました。
映画のラスト、崩れ落ちていく国営軍事工場をバックに‘インターナショナル’を大声で歌う労働者の集団が、中国の行く末を暗示しているようでした。
2006年ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)を受賞した映画「長江哀歌」は、傑作です。
ジャンクー監督作品の常連で炭鉱夫を演じるハン・サンミンが、素人と見紛う等身大の自然な演技で中年男を好演、これまたジャンクー監督作品の常連にして監督夫人のハン・サンミンも見事な演技で応え、現地で起用された大勢の素人俳優たちとの掛け合い(アンサンブル)もすばらしい映画です。
ジャンクー監督が、演出するドキュメンタリーのような現実とシュールなシーンを撮影監督ユー・リクウイは、ゆるいフォーカスと併せうすいグリーン・フィルターをかけ、カメラを引いてゆっくり横に移動させ山水画をパノラマで見るような見事な映像で撮っています。
2004年作品「世界」は、北京に実在する世界各国の有名な建造物を10分の1サイズで建造している‘北京世界公園’で働き、各国のアトラクションに出演している踊り子たちの物語ですが、ジャンクー監督の個性的な映画作りに驚きます。
主演は、ジャンクー監督2作目の女優チャオ・タオ(趙濤、1977~)です。
映画は、ストーリーの展開を説明する風でもなく長回しカメラでそれぞれ各国のアトラクションにまつわるシークエンスを描いていきます。
エンディングの一酸化炭素中毒死した恋人同士の会話もシュールで秀逸でした。
2002年作品「青の稲妻」は、中国版のゴダール「勝手にしやがれ」のようで山西省の都市 大同(ダートン)を舞台に傍若無人な若者たちを描いています。
街には、失業中の若者が、溢れており、19歳のビンビン(チャオ・ウェイウェイ)と親友のシャオジィ(ウー・チョン)も失業していました。
ビンビンは、恋人ユェンユェン(チョウ・チンフォン)が、北京の大学へ受験するので自分も北京に行くため兵役検査を受けるも不合格になりました。
親友のシャオジィは、モンゴル焼酎のキャンペーン・ガール チャオチャオ(チャオ・タオ)に恋するもチャオチャオが、ギャングの愛人と知りませんでした。
主人公たちに表情が、少なくシャオジィやギャングは、いつも煙草を吸っており全くの無表情でビンビンとシャオジィのヤケッパチのような銀行強盗も警備員にすぐに捕まる稚拙さです。
そんな彼らの様子をカメラが、ぶっきらぼうに映し出すだけの映画なのになぜか心に残る斬新な作品です。
余談ながら劇中に登場する奇人は、ジャ・ジャンクー監督自身が、演じていますので注意してご覧になると良いでしょう。