若者のすべて(福岡市総合図書館ミニシアターにて) シネマの世界<第775話>
10月のシネラ(映像ホール)は、トルコ映画特集で「サイの季節」や「卵」などすでに見た映画もありましたので、何気にミニシアターの上映スケジュールを見ると、映画は云うに及ばずドキュメンタリーや伝統芸能、民族音楽などいろいろなジャンルの映像が、企画されていて映画の上映予定は、一作だけで何とイタリア・ネオレアリズモの象徴的な作品であるルキノ・ヴィスコンティ監督の「若者のすべて」(1960年作品、原題「Rocco e i suoi fratelli」 ロッコと彼の兄弟)でした。
私は、イタリア映画を代表する稀代の名監督ルキノ・ヴィスコンティの作品は、ほとんど見て来ましたが、それは、「若者のすべて」以降の作品(1963年作品「山猫」から)であってヴィスコンティ監督が、撮った最後のネオレアリズモ作品「若者のすべて」は、見ておらず再上映のチャンスも何度も逃し、レンタルDVDもなく、どうしても見たい念願の映画でした。
ヴィスコンティ監督は、「若者のすべて」を発表すると舞台やオペラの演出に専念するようになりネオレアリズモの作風から‘ヴィスコンティ様式’となる死を象徴させた「滅びの美学(美意識)」をプロットとした作家性の強い映画に変化していきました。
「若者のすべて」は、原題に「ロッコと彼の兄弟」とあるように三男のロッコを演じるアラン・ドロン(1935~、出演時25歳でその類稀な美男ぶりは必見です)を中心に5人兄弟の名前が、それぞれ記(しる)されたチャプター(章)ごとにストーリーは、展開し5章完結の上映3時間の映画です。
ヴィスコンティ監督の演出は、云うに及ばず、撮影を名撮影監督 ジュゼッペ・ロトゥンノ(1923~、フェデリコ・フェリーニ、ルキノ・ヴィスコンティ、ヴィットリオ・デ・シーカ、マイク・ニコルズなど名立たる名匠監督作品を撮る)、音楽を名作曲家 ニーノ・ロータ(1911~1979)が、担っています。
出演者は、アラン・ドロンのほか出演時22歳の美女クラウディア・カルディナーレ(1938~、1963年「山猫」にも出演、これ以降フランスの美人女優ブリジッド・バルドー=BBに対しイタリアの美人女優クラウディア・カルディナーレ=CCとして世界の二大美女として有名になる)、三男ロッコのすぐ上の兄次男シモーネを演じるレナート・サルヴァトーリ(1934~1988)、ロッコとシモーネを手玉にとる娼婦ナディアを演じた当時29歳のアニー・ジラルド(1931~2011)と美女・美男の名優ぞろいです。
とくにこの映画でアラン・ドロン演じる三男ロッコを愛する娼婦ナディア役のアニー・ジラルドが、艶やかで美しくナディアは、劇中独占欲の強い次男シモーネに刺殺されますが(今で云うストーカー殺人です)、ナディア役のアニー・ジラルドとシモーネ役のレナート・サルヴァトは、この映画のあと結婚、二人仲睦ましく生涯添い遂げています。(上写真:撮影中のヴィスコンティ監督)