ダンケルク [IMAX] (前編) シネマの世界<第767話>
ノーラン監督は、先に紹介した作品でもCGを使わず実物大のセットによる特殊撮影でスケールの大きいスペクタクル映像やド迫力のアクションシーンを撮ってきましたが、最新作の「ダンケルク」では、巨大なセットを組まず戦場であったフランス北部ダンケルク海岸の陸・海・空に大勢のキャストとエキストラそしてスタッフを動員し、連合軍兵士40万人の大撤退作戦(1940年5月26日から6月4日までの10日間で決行されたダイナモ作戦)を再現、現場で大がかりなロケーションを敢行しました。
ノーラン監督は、最新のIMAXフォーマットと70㍉ラージフィルムを贅沢に使い(製作費100億円は、監督本人と夫人のエマ・トーマスだから成せる業かも)、鮮明な映像と大音響を同期させその実験的な演出でノーラン監督作品を見続けて来た熱狂的なファン(フォロワー)に戦場の阿鼻叫喚を体感(擬似体験)させると
生き残るのは、まさに運(偶然という幸運)、ノーラン監督の「ダンケルク」に英雄も主人公もおらず敢えて云うなら、このダンケルクで戦死した名も無き兵士たちや救出に向かい犠牲になった民間人7万人、彼らこそが、主人公の一大戦争叙事詩といえる映画です。
映画は、ダンケルクの陸・海・空で起きた時間軸の異なる三つの出来事を時計のチクチクチクと鳴る音とともに同時進行させ、いやがおうにも映画館の座席で見ている者(の生理と神経)を冒頭から最後までスクリーンに集中させます。
まず、新人俳優 フイン・ホワイトヘッド(1997~)演じる陸軍二等兵が、敵(姿の見えないナチスドイツ)に包囲されどこから飛んでくるか分からない銃弾の恐怖に怯え、死と隣り合わせた極限の緊張と絶望、ただ「生き延びるため」に必死で逃げ回る‘1週間’姿を描き、さらに我先に救援船に乗り込もうとする兵士の群れ、海岸に並ぶ死体の列、運よく乗船できたは良いが、敵の魚雷や飛行機からの爆撃により沖合で次々に沈む船‥阿鼻叫喚のダンケルク海岸の10日間を描きます。
イギリス海軍は、漁師たちの漁船を接収し軍用の救援船にしますが、マーク・ライランス(1960~)演じる元軍人の民間小型船の船長ドーソンは、空軍パイロットであった長男を戦死させた悔悟の念から次男を連れ自ら戦場のダンケルクへ救援に向かいました。(後編に続く)