エル ELLE シネマの世界<第761話>
映画は、冒頭イザベル・ユペール演じるゲーム製作会社の女社長ミッシェルが、高級住宅街の自宅で黒装束に目出し帽の暴漢にレイプされるシーンから始まり社内外に敵の多いミッシェルの人間関係とさらに複雑な家族関係をフラッシュバックさせながらバーホーベン監督は、ミステリアスにしてエロティックそしてサスペンスタッチ(サイコスリラーかも)で、見る者の心理を煽り最後までぐいぐい引きずり込んでいきます。
それにしてもイザベル・ユペールの60代半ばとは、到底思えないセクシー(エロティック)さ、に驚きます。
これは、バーホーベン監督の演出によるものとしても彼女の演じるミッシェルの放つ性フェロモンは、彼女のまわりにいる若い女性の性フェロモンが、色あせるくらい強烈です。
とにかくミッシェルは、レイプされても落ち込み悩む風でもなく、毅然として仕事を続け、元夫や友人、同僚に平然とそのことを話す彼女をダークなカメラ映像が、スクリーンに映し出していきます。
フランスの名撮影監督 ステファーヌ・フォンテーヌ(2005年「真夜中のピアニスト」、2009年「預言者」、2012年「君と歩く世界」とジャック・オーディアール監督作品を多く撮る)のカメラワークとダークな色調が、すばらしく、ミステリアスにしてエロティックな「エル ELLE」のプロットを途中からサイコサスペンスなタッチに変奏するも‥とにかく映画は、最後まで展開が、どうなるのか分からないまま見る者をドキドキ緊張させながら終わります。
相当癖のあるミッシェルを演じる演技巧者のイザベル・ユペールに挑むのが、フランスのローラン・ラフィット(1973~ 「ミモザの島に消えた母」)、アンヌ・コンシニ(1963~ 「潜水服は蝶の夢を見る」、「灯台守の恋」)、シャルル・ベルリング(1958~ 「夏時間の庭」)、ベルギーの女優 ヴィルジニー・エフィラ(1977~)です。
ミシェルは、自宅でレイプされながら警察を呼ぼうとせず、犯人の正体を突き止めようとしますが、自分の中に潜在していた性的嗜好や性衝動に突き動かされたミシェルは、封印していた少女のころに遭遇した壮絶な事件のトラウマを憶い出し、同時に身辺で不審な出来事が、頻繁に起きるようになりました。
レイプの被害者でありながら妙にふてぶてしく凄味を見せつつも、時に気弱さも感じさせるという難しい役どころをイザベル・ユペールは、癖のある女性を演じさせたら天下一品の見事な演技でバーホーベン監督の演出に応え「そういう役だと理解して演じただけです」とプレスのインタヴューにもさらりと答えています。
名女優イザベル・ユペールが、稀代の女優としてどこまで行くのか ‥ 一人のファンとしてこれから出演する作品を大いに楽しみにしています。
(左写真 : ポール・バーホーベン監督と打合わせるイザベル・ユペール)
今回は、ミッシェル(イザベル・ユペール)の表情、とくに ‘目の動き(ミッシェルの視線)’ に注意して、じっくり見ました。
脚本(ディヴィット・バーク)が、緻密で優秀、加えてポール・バーホーベン監督の秀でた演出、そして何よりイザベル・ユペール入魂の演技が、とにかく秀逸! です。
カンヌでパルムドールを逃したのとフランス人女優として初めてアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたイザベル・ユペールが、受賞しなかったのは、私にちと解せません。
まあ、世界の映画祭審査員も 大したことはない ということの証左でしょう。
しばらく時間をおいて、三回目を見たいと思います。