母の残像(爆弾よりも大きな音) シネマの世界<第752話>
原題は、「Louder Than Bombs(爆弾よりも大きな音)」、主人公の著名な戦争写真家イザベル(イザベル・ユペール)が、突然ナゾの死を遂げてから3年、妻であり 母であった故人を巡る家族3人(夫と息子2人)の心理をサスペンスフルに描いたヒューマンドラマです。
ヨアキム・トリアー監督の長編3作目となる「母の残像」の脚本は、ノルウェーの脚本家エスキル・フォクトが、同じく撮影監督は、ヤコブ・イーレ(1975~)とヨアキム・トリアー監督の盟友たちが、担い、キャストは、イザベルの夫ジーンにアイルランドのベテラン俳優 ガブリエル・バーン(1950~、1995年「ユージュアル・サスペクツ」ほか出演)、長男のジョナにジェシー・アイゼンバーグ(1983~、2011年「ソーシャル・ネットワーク」、2015年「エージェント・ウルトラ)」など主演)、多感な15歳の次男 コンラッドを新人俳優 デヴィン・ドルイド(1998~)が、演じそれぞれの役柄をリアリティのある見事な演技で見せてくれます。
イザベルの撮った写真の出版を担う編集者でイザベルの秘かな愛人役のデビッド・ストラザーン(1949~)の渋い存在感も秀逸です。
映画は、戦争写真家の母イザベルのナゾの死から3年、イザベルの撮った写真展準備のために長男のジョナが、久しぶりに父ジーンと弟コンラッドの暮らす実家に帰ってきました。
事故か自殺か、不可解なイザベル突然の死、久しぶりに顔を合わせた遺族である夫にして父ジーンと息子の2人が、それぞれの心にあるイザベルへの想いを語ることで現実を受け入れ壊れかかっていた家族の絆を取り戻そうとしていました。
憑かれたようにアフガニスタンなど過酷な戦争現場に出向き悲惨な戦場の写真を撮り続けた有名な報道写真家イザベル ‥ 母の死から引きこもり心を閉ざしたコンラッドが、映画の語り部となり、家にいない母イザべルに代わり自分と兄ジョナを育てた高校教師の父ジーンの姿、大学で社会学を教える兄ジョナは、結婚し生まれたばかりの娘に母の名イザベルという名前を付けたものの家庭に囚われる自分と父親になったことへの躊躇(ためらい)、思春期の多感なコンラッドもまたクラスメイトの女子高生を密かに恋していました。
映画は、ヨアキム・トリアー監督の繊細な演出と撮影監督ヤコブ・イーレの丁寧なカメラワークが、生前の家族と一緒にいたイザベルの姿を映し、そのシーンをカットバックさせながら家族4人の葛藤と心理描写で一級のミステリアスかつサスペンスフルな心理劇にしています。
(左写真 : モニターを確認しながら 撮影中のヨアキム・トリアー監督)