ブログトップ | ログイン

心の時空

yansue.exblog.jp

a day in my life

ありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>

ドイツの女性監督マーレン・アーデ(1976~)が、製作・脚本・監督したコメディ映画「ありがとう、トニ・エルドマン」を天神のKBCシネマで見ました。
ありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_133767.jpg
この映画の脚本を書くときマーレン・アーデ監督は、子供のころ父親が、自分にしていた悪ふざけを憶い出し、それと重ね合わせて主人公の初老の音楽教師ヴィンフリートで悪ふざけするとき名のる ‘トニ・エルドマン’ のイありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_1341527.jpgメージを膨らませていったそうです。
ドイツとオーストリア合作の「ありがとう、トニ・エルドマン」は、摩訶不思議なコメディ映画で‘初老の父親とアラフォー前の独身娘’の物語ながらコメディなのに笑えないシーンが、多く、撮影監督パトリック・オルト(1968~)のカメラは、父トニ・エルドマンと娘イネス親子のお互いギクシャクした愛情のズレをありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_137448.jpg丁寧に追い、二人の心の襞(ひだ)を緻密に掬いとっています。
父親のヴィンフリート=トニ・エルドマンをオーストリアの名優 ペーター・シモニスチェク(1946~)が、娘イネスをドイツの女優 サンドラ・ヒュラー(1978~)が、二人ともに秀逸な演技で親子のズレた愛情を見事に表現しています。
ありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_13918100.jpg「ありがとう、トニ・エルドマン」は、ヨーロッパ映画賞において作品賞(女性監督初受賞作品)、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚本賞と5部門で受賞し高い評価を受けました。
悪ふざけが、大好きな父 ヴィンフリート(ペーター・シモニスチェク)とドイツの大手経営コンサルタント会社で働くエリート社員の娘イネスは、性格も人生観も正反対の二人ながら親子が、たまに会っても娘のイネス(サンドラ・ヒュありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_1405218.jpgラー)は、仕事の電話に追いかけられ父親の話を聞こうともしませんでした。
ヴィンフリートは、仕事に追われるイネスが、心配のあまり「おまえ、本当にそれでも人間なのか?」と親子であっても‘それを言っちゃオシマイよ’というようなキツイ言葉で彼女の人生を皮肉りました。
ありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_1425824.jpg娘のイネスは、イネスで、離婚した母親と暮らす自分に会いたがり、会えば会ったで、自分にくだらないジョークやダジャレ、オヤジギャグばかりの父ヴィンフリートにうんざりし、疎ましく思っていました。
ヴィンフリートは、愛犬の老衰死をきっかけに娘のイネスが、仕事で駐在するルーマニアの首都ブカレストを訪ねました。
ありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_1433999.jpg突然の父親の訪問にイネスは、びっくり仰天しますが、追い帰すこともできず仕方なく自宅マンションに泊め、ルーマニアで石油会社のM&A(企業買収)案件に忙殺されながら、どうにか数日間を一緒に過ごしてあげました。
ありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_1444065.pngドイツに帰る父親を見送り、ホッとしていると野暮ったいスーツを着た出っ歯で長髪の「トニ・エルドマン」と名のる別人が、イネスの前に出現しました。
神出鬼没のトニ・エルドマンが、イネスに付きまとい彼女の会社に奇妙な肩書きのコンサルタントで現れたり、彼女のいる高級レストランや顧客を招いたホテルのパーティ会場にドイツ大使とありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_1454773.jpg称して登場したり、トニ・エルドマンの奇怪な行動にイネスのイライラは、募って行きました。
とにかく劇中のいろいろなエピソードが、おもしろく ユニークです。
とくに女性のアーデ監督が、演出したイネスの同僚で愛人(セフレ)とのセックスシーンも滑稽かつ秀逸でした。
ありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_1462856.jpgポルノ顔負けのアッケラカンとした過激なもので ‥ トニ・エルドマンに付きまとわれてセックスに集中できないイネスが、欲情して彼女に迫る愛人に自分の性器を見せ自慰させて、ルームサービスのケーキに射精させ、それをイネスは、美味しそうに口にしますが、イネスの虚無的な精神と投げやりで刹那な暮らしぶりを見事に表わしていて秀逸です。
ありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_1465967.pngアーデ監督は、会社の利益追求だけを目的とした仕事に疲れ果てたイネスが、無味乾燥な暮らしの一部である虚無的なセックスを描くことで人生を見失っている愛娘のイネスに父ヴィンフリートの言った「おまえ、本当にそれでも人間なのか?」のセリフが、重なるように演出、父と娘の普遍的な関係を絶妙のユーモア感覚でクールかつヒューマンに描いています。
ありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_1482491.jpg音楽教師の父ヴィンフリートのピアノ演奏でイネスが、ホイットニー・ヒューストンの「Greatest Love of All」を歌うエピソードは、感動します。
イネスが、会社の上司や同僚、友人を招いたホームパーティ誕生会で突如癇癪を起こし(ストレスを爆発させ)出席者全員をヌードにさせるエピソードやそのヌードパーティに突然毛むくじゃありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_1531417.jpgらのクケリ(幸せを呼ぶ精霊)の格好をしたトニ・エルドマンが、現われ室内を一巡すると何も言わず出て行くシークエンス、そのクケリの後をイネスは、追いかけ公園で振り向いた毛むくじゃらのクケリに無言で抱きつくシーンが、感動的です。
「ありがとう、トニ・エルドマン」は、早くもハリウッドでジャック・ニコルソン(1937~)とクリスティン・ウィグ(1973~)ありがとう、トニ・エルドマン  シネマの世界<第747話>_a0212807_233510.jpgの主演でリメイクが、決定、怪優ジャック・ニコルソンのトニ・エルドマンも強烈でしょうね、とても楽しみです。

(右写真:左からペーター・シモニスチェク、マーレン・アーデ監督、サンドラ・ヒュラー)
by blues_rock | 2017-07-23 01:03 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)
名前
URL
削除用パスワード

by blues_rock