誰のせいでもない シネマの世界<第745話>
“3人の女優”とは、フランスからシャルロット・ゲンズブール(1971~、2007年「アイム・ノット・ゼア」、2009年「アンチクライスト」、2011年「メランコリア」、2013年「ニンフォマニアック」など)ならびにマリ=ジョゼ・クローズ(1970~、2003年「みなさん、さようなら」、2005年「ミュンヘン」、2007年「潜水服は蝶の夢を見る」、2010年「海の上のバルコニー」など)、およびカナダからレイチェル・アン・マクアダムス(1978~、2004年「きみに読む物語」、2011年「ミッドナィト・イン・パリ」、2013年「アバウト・タイム」、2014年「誰よりも狙われた男」、2015年「サウスポー」、「スポットライト 世紀のスクープ」)の3人です。
この3人の女優に絡むのが、映画の主人公で作家のトマスを演じるアメリカの俳優ジェームズ・フランコ(1978~、2002年「容疑者」、2008年「ミルク」、2011年「猿の惑星/創世記」)と、トマスが10年前、カナダ、モントリオール郊外の雪道で起こした交通事故の被害者で16歳になった少年クリストファーを演じるカナダの若手俳優ロバート・ネイラー(1996~)の2人の俳優です。
シャルロット・ゲンズブールは、トマスの運転する自動車事故で幼い息子(4歳の次男)を亡くした母親のケイト役、マリ=ジョゼ・クローズが、出版社の編集者で作家トマスの再婚相手アンの役、レイチェル・アン・マクアダムスは、作家トマスが、不遇の時代 不可抗力の事故とはいえ幼い男の子(4歳の次男)を死なせた罪悪感で心神喪失、自殺未遂した当時の妻サラの役を名演しています。
「誰のせいでもない」(原題 Every Thing Will Be Fine すべてうまくいく)は、視界の悪い雪道に突然飛び出してきた幼い子供二人の乗ったソリと走行中のトマスの車との不可抗力の「誰のせいでもない」偶発的な交通事故ながら、トマスとその後、彼の人生に深く関わる3人の女性たちならびに雪の坂道から道路にソリで飛び出して幼い弟を死なせてしまった10年後の16歳になったクリストファーの人生を事故から2年後、4年後さらに4年後と時間を区切りながらゆっくりしたテンポで5人の人生を描いていきます。
名匠ヴィム・ヴェンダース監督演出のすばらしさもさることながらヴェンダース監督が、見出したノルウェーの脚本家ビョルン・オラフ・ヨハンセン(1965~)のシナリオもまたすばらしく映画は、登場人物のさまざまな感情 ‥ 罪悪感、怒り、赦し、失望など、彼らの心の襞(ひだ)を丁寧にとらえ、不可抗力とはいえ、加害者と加害者の家族、被害者と被害者の家族それぞれのデリケートな感情の動きを緻密に描いていきます。
ベルギーの撮影監督 ブノワ・デビエ(2010年クリステン・スチュワート主演映画「ランナウェイズ」の撮影監督)のトーンを落とした映像が、秀逸で、寒々としたカナダの雪景色を登場人物5人の心象風景と重ね合わせ、さらに映画音楽の名作曲家 アレクサンドル・デスプラ(1961~ 2005年「真夜中のピアニスト」と2014年「グランド・ブダペスト・ホテル」でアカデミー賞作曲賞受賞)の控え目ながら心に沁み入るような音楽(サウンドトラック)は、5人の揺れ動く心情を見事に表現しています
ヴェンダース監督演出の上手さは、シリアスな心理ドラマをミステリーっぽく見せ ‘これから何か事件が起きるのでは’ と見る者に予感させるサスペンス仕立てにして最後