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心の時空

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春の日は過ぎ行く  シネマの世界<第738話>

友だちから薦められて見た2001年韓国映画「春の日は過ぎ行く」は、私が、初めて見るホ・ジノ監督(1963~))作品ながら、なかなかどうして映画才能(映像演出力)のある名匠監督でした。
春の日は過ぎ行く  シネマの世界<第738話>_a0212807_6125218.jpg映画のプロットは、今どき珍しい純情な青年と年長で離婚歴が、あり生理的な感情(孤独感と肌の温もり欲しさ)で自分に恋する青年と付き合うジコチューの(ある意味 非常に人間的な)女性との儚く切ないラブ・ストーリーです。
主人公の青年、録音技師のサンウ(ユ・ジテ1976~)とラジオの深夜放送番組のプロデューサーを兼ねる DJウンス(イ・ヨンエ 1971~、2000年韓国映画「JSA」出演)は、番組で使用する‘自然の音’を収録するため一緒に取材することになりました。
サンウは、ウンスを深夜放送のラジオから聞こえる声(語り)を通して知っていました。
春の日は過ぎ行く  シネマの世界<第738話>_a0212807_6143269.png
ウンスは、地方駅(サンウの生まれ故郷の駅)に迎えに来たサンウとそこで初めて会いました。
映画冒頭でサンウが、駅で待つウンスとの約束時間に遅れ到着するシーンと 映画の最後、お互い相手に未練春の日は過ぎ行く  シネマの世界<第738話>_a0212807_615221.jpgを残しながら別れるシーンで、本人の姿は、そこにないものの認知症を患うサンウの祖母(ペク・ソンヒ 1925~ 脇役ながら秀逸)が、この映画の‘狂言回し’の役割を担い、重要なキーパーソンになります。
美男・美女が、主人公のこの手の恋愛映画は、監督に抜群の演出技能が、ないと甘ったるくて見られたものでは、ありませんが、ホ・ジノ監督は、老女優 ペク・ソンヒ演じるサンウの認知症祖母を登場させることで美男ユ・ジテと美女イ・ヨンエ主演の悲恋物語を芳醇な人生ドラマに昇華して描きました。
仕事(自然音の収録取材)で、知り合ったサンウとウンス、いつしかお互いを意識し惹かれ合うようになりますが、相手に対する気持ちの有様(ありよう)は、違いました。
純真な青年サンウは、美しい年上の女性ウンスに会うたびに想いをつのらせ、一途に恋する(恋してしまうもの)ようになりました。
離婚で傷ついた心が、癒えないウンスは、愛に臆病でサンウの恋をまっすぐ受け入れず孤独と寂しさを癒すため、そして時おりサンウや他の男に肌の温もりを求める感情のおもむくままの愛(異性愛)でした。
春の日は過ぎ行く  シネマの世界<第738話>_a0212807_616682.jpgホ・ジノ監督は、「愛は惜しみなく奪う」という利己的な愛(性愛)の本質と一途に相手を想う恋(相手の中に自己を投影させる欲求)との明確な違いを分かりやすく描いています。
「恋と愛」、私たちが、‘恋愛’と一括りにするまったく異質な人間(男と女)の性(ヘテロであれホモ=ゲイであれセックス)への普遍的な感情をこれほ春の日は過ぎ行く  シネマの世界<第738話>_a0212807_6175871.jpgど分かりやすく表現した映画は、他になくジノ監督が、演出した「春の日は過ぎ行く」は、悲恋(悲恋でない恋は、恋ではないのかも)ロマンス映画の秀作です。
人生の「春」とは? ‥サンウの認知症を患う祖母(ペク・ソンヒ )は、認知症を患っていても春の日が、過ぎてゆくものであることを知っています。
春の日は過ぎ行く  シネマの世界<第738話>_a0212807_6225730.jpgとっくの昔に亡くなった夫(連れ合い)の帰りを待ち、毎日駅に迎えに行く祖母が、ウンスに失恋してさめざめ泣く孫のサンウにそっと寄り添い「つらいんだねえ、去ったバスと女は、追うもんじゃないよ」と静かに慰めるシーンは、胸を熱くします。
春の日は過ぎ行く  シネマの世界<第738話>_a0212807_6232980.jpg映画の終盤、祖母が、嫁入りのときに着た懐い出のチマチョゴリを着て、日傘をさし、嫁いで以来長年暮らした家の門を出て行く(たぶん駅に亡き夫を迎えに行く)シーンも印象に残る名場面です。
祖母に可愛がられたサンウは、祖母を大事にし祖母もまた孫のサンウを溺愛していましたが、祖母の死でサンウは、春の日が、過ぎてゆくものであることを知りました。
春の日は過ぎ行く  シネマの世界<第738話>_a0212807_7203241.jpgホ・ジノ監督の演出は、静かでやさしさに満ちており、サンウの恋とウンスの愛の移ろいを「老い」の視線でゆっくり描いていきます。
「春の日は過ぎてゆく」は、恋と愛の本質的な違いを知りたいと思う方にお薦めいたします。
この映画は、‘音楽’と‘音’も非常に重要です。
春の日は過ぎ行く  シネマの世界<第738話>_a0212807_721618.jpg私見ながら映画のプロットに大きな影響を与えたと推われる歌(原曲 カンツォーネ、ダスティ・スプリングフィールト、エルヴィス・プレスリーがカヴァーして大ヒットした)「この胸のときめきを」(You don't have to say you love me)が、編曲(スロウにアレンジ)されて劇中でゆったりと流れ、正しくこの歌の切ない歌詞そのま春の日は過ぎ行く  シネマの世界<第738話>_a0212807_7264034.jpgまに悲恋ドラマにしたのではないかとふと思いました。
‘音’は、サンウとウンスをつなぐ重要な道具で、竹林の風の音、風の音、雪の音、波の音など自然の「音」が、映画に深い情感を与えています。
ジノ監督は、撮影中いつも録音技師と一緒に現場に行き、撮影に合わせ同時録音したそうです。
エンドクレジットに流れる松任谷由実 作詞・作曲の主題に添った「春の日は過ぎゆく」もなかなか好い曲でした。
by blues_rock | 2017-06-28 00:08 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)
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