シークレット・オブ・モンスター シネマの世界<第735話>
心理ミステリー、スリラー映画ながら、コーベット監督の演出は、どこかホラーっぽく、ベネツィア国際映画祭で
審査委員長を務めたジョナサン・デミ監督(1990年の傑作スリラー映画「羊たちの沈黙」の監督)が、ベネツィアで上映された「シークレット・オブ・モンスター」を見て、‘身震いする緊張感、戦慄の映画’と大絶賛、ベネツィア国際映画祭で監督賞と初長編作品賞を受賞しました。
映画は、第一次世界大戦末期の1918年、戦争終結の条約策定のためにパリ郊外のベルサイユに赴任したアメリカ政府外交官(国務次官補)の幼い息子(美少年)を主人公に、第一次世界大戦もまだ終結しない中、早くも次の第二次世界大戦前夜を予兆させるファシズムの台頭(独裁者の登場)を描いています。
‘戦争の世紀’と呼ばれる20世紀初めの不穏な空気を漂わせた映像は、奇才コーベット監督の類稀な演出と相まってイギリスの撮影監督ロル・クローリー(1974~)の ‘闇’ を強調したカメラワーク、さらに映画音楽を担ったロックミュージシャン スコット・ウォーカー(1944~ ロックバンド「ウォーカー・ブラザーズ」リーダー)による不気味にして不穏な不協和音が、映像とシンクロし幼い少年の心の歪みや、やがて大人の手に負えない狂気のモンスター(怪物=独裁者)に変貌していくさまを見事に表現しています。
不気味に歪んでいく美少年プレスコットを9歳の映画初出演のトム・スウィートが、‘次第に歪み 狂気のモンスターに変貌していく姿’ を見事に演じています。
子役俳優のトム・スウィートは、正しく天才的な演技才能をもった小さな名優と言っていいでしょう。
息子のプレスコットを厳格に教育し躾ける信心深いカトリック教徒のドイツ人母親をフランスの名女優ベレニス・ベジョ(1976~ 「アーティスト」、「ある過去の行方」など名作に多数出演)が、一人息子のプレスコットによそよそしいアメリカ政府外交官(国務次官補)の父親をアイルランドの名優リアム・カニンガム(1961~ 「麦の穂をゆらす風」、「ハンガー」など名作に出演)が、さらにプレスコット少年の家庭教師としてフランスの新鋭女優ステイシー・マーティン(1991~ 「ニンフォマニアック」、2015年「パレス・ダウン」に主演)が、それぞれ心理描写の難しい役柄を見事に演じています。 (下写真 : ブラディ・コーベット監督)
登場する人物を後ろから撮った映像のエロティシズム、まわりの大人で唯ひとり自分にやさしかった家政婦の老婆を母親が、息子を甘やかすという理由で解雇し屋敷から追い出す時に見せるプレスコット少年の精神を崩壊させる表情、ベルサイユ条約調印を祝うホームパーティーの席上で、ホストである父親を無視し母親の命令を拒否する幼いプレスコット少年に解き放たれモンスターぶりは、この映画の見どころと云って良いでしょう。