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心の時空

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ディーパンの闘い  シネマの世界<第684話>

フランスの名匠ジャック・オーディアール監督(1952~)の最新作(2015年)「ディーパンの闘い」は、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞した傑作映画です。
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オーディアール監督の作品で強く印象に残っているのが、2009年カンヌでグランプリを受賞した「預言者」で、当時まだ無名俳優であったタハール・ラヒム(1981~)を主人公に抜擢、彼の才能を引き出しタハール・ラヒムを将ディーパンの闘い  シネマの世界<第684話>_a0212807_1192495.jpg来性のあるフランス若手俳優として有名にした演出の上手さ(それに応えたタハール・ラヒムも見事)にあります。
「ディーパンの闘い」で主人公のディーパンを演じたアントニーターサン・ジェスターサン(1967~)は、実際フランスに亡命したスリランカ内戦の元兵士で、劇中のディーパンと同じような厳しい悲惨な現実を体験しています。
いま彼は、フランスで作家として活動、映画初出演ながら彼の存在と演技が、あまり自然なのでドキュメンタリーディーパンの闘い  シネマの世界<第684話>_a0212807_1213579.pngのようなリアリティを感じました。
映画は、スリランカ内戦の闘士ディーパンが、戦いに敗れ難民としてフランスに亡命するためとっさにニセ家族を偽装するところから始まります。
ニセの妻ヤリニを演じるカレアスワリ・スリニバサン(女優じゃないためプロファイル不明)とニセの娘イラヤル役のカラウタヤニ・ビナシタンビ(同じくプロファイル不明)の二人もまた演技経験が、なく映画初出演ながら自然なリアリディーパンの闘い  シネマの世界<第684話>_a0212807_1225835.jpgティある演技を披露しています。
強制送還を逃れるためニセ家族を続けながらパリ郊外のスラムのような団地に暮らしディーパンは、団地の管理人になり、ヤリニも団地に住む老人の訪問介護の仕事を手にしますが、団地に屯(たむ)する麻薬密売グループの抗争に二人は、巻き込まれてしまいました。
ディーパンの闘い  シネマの世界<第684話>_a0212807_124577.jpg移民問題に揺れる荒んだフランス社会をバックにニセ家族ながら今日を生き抜くためにお互い助け合い、そして次第に家族のようになりながら明日に希望を託す人たちを描いた優れた人間ドラマでした。
オーディアール監督の作品は、これまでも人種・宗教・移民の問題を映画のモチーフ(プロット)にしています。
ディーパンの闘い  シネマの世界<第684話>_a0212807_1282100.jpg弱者(弱い立場の人間)が、不条理かつ劣悪な環境の中で追い詰められ理不尽な暴力と抑圧に晒されるとき爆発する怒り(人間の本能、動物的な衝動)は、オーディアール監督演出の真髄のようで「ディーパンの闘い」でも普段は、穏やかで我慢強い管理人のディーパンが、団地内で縦横無尽に我がもの顔に振る舞い銃を乱射し住民を怯えさせる麻薬密売グループに独りで戦いディーパンの闘い  シネマの世界<第684話>_a0212807_1293842.jpgを挑む最後のシークエンスは、「タクシードライバー」のようで必見です。
オーディアール監督は、ラストシーンをロンドンで幸せに暮らすディーパンと妻ヤリニ、娘のイラヤル、そして新しく誕生した赤ん坊の4人家族を映しますが、見る者は、リアル(本当)なのか、ディーパン家族のファンタジー(願い)なのか分からないまま映画を終わらせます。
ディーパンの闘い  シネマの世界<第684話>_a0212807_1301938.jpg余談ながら、多民族国家フランス社会の多様性は、映画にもしばしば取り上げられ、異民族(異人種)・異宗教・異文化が、混在する社会で起きる事件を「ディーパンの闘い」のようにシリアスに描くかと思えば、2011年映画「最強のふたり」や2014年映画「最高の花婿」(Qu'est-ce qu'on a fait au Bon Dieu ? 神様、私たち何かしましたか?)のようにユーモラスかつコミカルに描きディーパンの闘い  シネマの世界<第684話>_a0212807_1314040.jpgフランス国内外で多くの映画ファンに支持されています。
「最高の花婿」(フィリップ・ドゥ・ショーブロン監督 1965~)は、敬虔なカトリック教徒の両親と4人の娘たち、その4人の愛娘たちが、選んだそれぞれのパートナー(3人の夫と1人の婚約者)は、ユダヤ人でありアラブ人さらに中国人、そして末娘が、クリスマスの日、家族に紹介したのは、コート・ジボアール人の若者でした。
ディーパンの闘い  シネマの世界<第684話>_a0212807_133333.jpg保守的で頑固なフランス人の父親と同様にアフリカ民族の誇りとコート・ジボアールの生活習慣を頑なに守るアフリカ人の父親二人のぶつかり合いとドタバタ模様もユーモラスで笑えます。
「最高の花婿」は、異文化激突の騒動を描いた抱腹絶倒のコメディ映画でフランス国内の映画観客動員数が、歴代第6位の1.300万人強だとか、今年2017年のフランス大統領選挙は、フランスの ‘移民(難民)排斥’ が、最大の争点で多種多様な民族(人種)・宗教・文化との共生(折り合い)は、極めて身近な問題なのです。
オーディアール監督の配偶者もアフリカ系の女性だとか、インタヴューで共同生活のコツを訊ねられて「相手に‘慣れる’こと」と答えた監督の聡明さが、光ります。
by blues_rock | 2017-01-07 01:07 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)
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