ブログトップ | ログイン

心の時空

yansue.exblog.jp

a day in my life

無言歌  シネマの世界<第620話>

a0212807_20485335.jpg中国の先鋭的な映画監督にしてドキュメンタリー作家王兵(ワン・ビン 1967~)が、初めて撮った2010年長編劇映画の傑作「無言歌」を紹介します。
鬼才王兵(ワン・ビン)監督は、ドキュメンタリーを自家薬籠中のものとしているだけあって長編初監督作品の「無言歌」(原題「夾辺溝」中国辺境の地ゴビ砂漠にある地名)も、撮影監督ルー・ション(ジャ・ジャンクー監督2006年作品「長江哀歌」で撮影助手を務める)との相性が、抜群で1957年から20年間、国家を超越した中国共産党の暴挙と毛沢東独裁体制下で行われた文化大革命(暗黒の反右派闘争=反対派粛清)の愚行をリアルに描いています。
a0212807_2111341.jpg文化大革命は、100万人とも200万人とも云われる知識人たちを「共産党と労働者、社会主義を転覆させようと画策している反革命分子=政治犯」として有無を言わせず拘束、さらに理不尽な弾圧と迫害(原作 ヤン・シエンホイ著「告別夾辺溝」)を行い、中国辺境にある強制収容所へ追放し‘労働改造’(奴隷のような強制労働)に従事させました。
a0212807_2112568.pngこの映画「無言歌」は、中国辺境の地ゴビ砂漠にある夾辺溝の収容所に隠しカメラを持ちこみ現場でゲリラ撮影したようなリアリティがあり、その凄惨な映像に身震いし見ている者の胸は、締め付けられるように苦しく痛みます。
中国では、映画を製作する場合、国の資金援助と撮影上の便宜を受けられますが、ワン・ビン監督は、いっさい国から支援を受けず、香港・フランス・a0212807_21141160.jpgベルギー合作映画として製作、「無言歌」には、ビン監督の作家性が、鮮明で中国共産党さえ制御した毛沢東独裁の‘文化大革命’による粛清と弾圧を描いています。
20世紀の世界三大殺戮者は、ヒトラー、スターリン、毛沢東ですが、ヒトラーの虐殺は、ユダヤ人を入れて800万人、スターリンの粛清が、3千万人、毛沢東は、無知蒙昧な大躍進政策(=中国全土で鉄だa0212807_2115161.jpgけ生産 / 私有財産の廃止 / 農業の人民公社化)の大失敗で中国経済が、疲弊し、自然環境の破壊による食料生産の著しい低下で飢死者は5千万人を超えました。
毛沢東は、表向き国家主席を辞任しますが、文化大革命ですぐに国家の最高権力である共産党主席に復帰しました。
a0212807_21155444.jpg1949年に中華人民共和国が、建国され、国を一つにまとめるため毛沢東は、共産党外の各民主派からも支持を得るため“百花斉放百家争鳴(多彩な文化を開花させ多様な意見を論争する)”の協調体制を呼びかけますが、実は、毛沢東が、反対派を炙り出すための巧妙な罠(トラップ)でした。
a0212807_21163735.jpg劇中に登場する元教員は、「プロレタリア独裁という言い方は、ダメだ。全民独裁と言うべきだ。国は、全国民のものなのだから」と意見を述べただけで「右派」とされ労働改造収容所(右派強制収容所)に送致されました。
映画は、中国西部の辺鄙な甘粛省 ‘夾辺溝’(映画の原題でもある) という荒涼とした雑草の他に何もない砂塵の舞うコビ砂漠の右派強制収容所a0212807_21214341.jpgが、舞台です。
「無言歌」(原題は「夾辺溝」)の英語タイトル「The Ditch」とは、砂漠に掘られた溝、穴の住居というような意味で、そこで3,000人の知識階級(右派)が、暮らし強制労働に従事、厳しい衣食住の環境で3分の1は、歩くことさえできませんでした。(詳しくは、こちらの作品情報をご覧ください。)
a0212807_21233283.pngやがて毛沢東が、死に「夾辺溝」の強制収容所は、解放されますが、生存者は、わずか500人でした。
「無言歌」(中国語「夾辺溝」、英語「The Ditch」)は、中国映画ではないと云うワン・ビン監督ですが、直接名指しはしないものの「明らかな毛沢東批判」なので当然のことながら中国では、上映禁止です。
a0212807_21255362.pngワン・ビン監督は、食糧難で飢えあさましくなった知識人たちの凄惨で哀れな姿を冷徹に見つめながら飢えて苦しみ、やがて死んでいく彼らの命を淡々と描き強烈なメッセージを発しています。
ワン・ビン監督の気骨あふれる演出をルー・ション撮影監督は、長回しで砂漠の過酷な環境とそこで営む絶望的な暮らしを生々しくも美しい映像で捉えています。        上・下写真 : 中国映画の逸材 王兵(ワン・ビン)監督
a0212807_21555859.jpg中国の人民元紙幣(マネー)は、1元から100元の紙幣 6種類すべてに毛沢東の肖像が、印刷されています。
中国13億の国民(8,500万人の特権階級共産党員を除く)は、どんな思いで、この人民元紙幣の毛沢東を眺めているのでしょうか?
私は、早晩人民元紙幣の肖像は、辛亥革命を率い清王朝政権を崩壊させ、近代中国の礎を築いた孫文に変わると予想しています。
by blues_rock | 2016-08-14 00:14 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)