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心の時空

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トスカーナの贋作  シネマの世界<第618話>

a0212807_22542765.jpg「トスカーナの贋作」は、パリに亡命したイランの映画監督アッバス・キアロスタミ(1940~2016 小津安二郎監督に心酔)が、初めてイラン以外で撮った長編映画(2010年脚本・監督、フランス・イタリア合作)です。
映画は、イタリア南トスカーナ地方の小さな町アレッツォを舞台に、キアロスタミ監督が、‘本物と偽物’、‘現実と虚構’の境界を曖昧にして一組の中年夫婦の有様を描いた心理劇です。
イギリスの作家ジェームス(ウィリアム・シメル 1952~ イギリスの世界的なバリトン歌手、映画初出演ながら名演)は、新作の著書「贋作、本物より美しき贋作を」を発表し、その記念講演のためにトスカーナのアレッツォを訪ねていました。
a0212807_2312747.jpg会場でギャラリー経営者のフランス人女性(ジュリエット・ビノシュ 1964~、さすが百戦錬磨の名女優といった風格ある演技でカンヌ映画祭女優賞を受賞)と知り合いました。
講演のあとカフェで真実と虚構(公認されたコピー)、つまり‘本物と偽物’の芸術論争をしているとカフェの女主人に長年連れ添った夫婦と勘違いされました。
a0212807_2323936.jpgそれから二人は、まるで長年連れ添った夫婦のように振る舞い始めました。
キアロスタミ監督の演出が、上手くて二人は、夫婦を演じているのか、いや夫婦なのだが、イギリスとイタリアそれぞれ別に暮らし久しぶりに会ったのかもしれないと見ている方は、女性と暮らす少年の立ち位置(作家ジェームスはこの少年の父親でa0212807_2333798.pngはないかと錯覚させる)の塩梅と云いキアロスタミ監督の演出マジックに翻弄されます。
キアロスタミ監督は、‘本物と偽物’を融合させ、その境界が、曖昧になるようにしてドラマを構成、まさしく「贋作、本物より美しき贋作を」の夫婦像を創りあげました。
a0212807_2342214.jpg映画の中盤、「トスカーナのモナリザ」という贋作を見に行った二人は、‘本物と偽物’について激論、お互いにイラ立ち言い争いを続けていると偶然、広場で出遭った老夫婦の男性が、ジェームスにそっと「あなたの奥さんが求めているのは、そっと肩を抱かれて歩くことだ」とアドバイスします。
a0212807_2361630.jpgその老人を演じるのは、名脚本家のジャン=クロード・カリエール(1931~ 1967年カトリーヌ・ドヌーブ主演の「昼顔」、「ブリキの太鼓」、「存在の耐えられない軽さ」など多くの傑作映画の脚本を執筆)で、何とも言えない実在感が、印象に残りました。
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撮影は、名匠ルカ・ビガッツィ撮影監督(1958~ 2008年イタリア映画「イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男」)で、あたかも長年連れ添った夫婦のような二人が、車でトスカーナの村をめぐりながら時に愛し合う仲の良い夫婦のよ
a0212807_239918.jpgうに、ある時は、言い争いの絶えない倦怠期の夫婦として二人のその様子をカメラが、追いトスカーナの美しい眺望と組み合わせて美しく捉えています。
映画には、音楽がなく、時おり鳴る教会の鐘の音は、映画に不思議な静寂を醸し出しています。
by blues_rock | 2016-08-08 00:08 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)