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心の時空

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ロシアの鬼才アレクサンドル・ソクーロフ監督  シネマの世界<第614話>

ロシア映画の鬼才映画監督アレクサンドル・ソクーロフ(1951~)は、国立映画大学の卒業製作に撮った「孤独な声」(1978年長編映画初監督作品、大学から廃棄命令、上映禁止)が、希代の映画監督名匠アンドレイ・タルコフスキー監督から高く評価され、とくにドキュメンタリーの秀作を多く発表しています。
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今夜紹介するのは、ソクーロフ監督が、撮った20世紀の「権力者」4部作のうち日本の昭和天皇を描いた2006年の「太陽」と実在の人物ではありませんが、4部作最後の2011年「ファウスト」の2作品です。
権力者4部作は、他に独裁者ヒトラーを描いた1999年作品「モレク神」、ソ連の指導者レーニンを描いた2001年a0212807_7162038.jpg作品「牡牛座 レーニンの肖像」もありますが、私は、この2作品を見ていないので今回触れないでおきます。
さて、昭和天皇を描いた「太陽」ですが、ロシア・イタリア・フランス・スイスの合作映画で製作に日本は、入っていません。(菊の紋章をブロットにした日本映画は駄作が多く残念です。)
ソクーロフ監督は、監督と撮影を一人で担い太平洋戦争末期、日本帝国が滅亡するころの現人神天皇に苦悩する昭和天皇の姿を日本贔屓のロシア人監督の目で奇を衒(てら)わず丁寧に描いています。
タイトル「太陽」の原題も「Солнце=The Sun」と同じ太陽を意味し昭和天皇に会ったGHQのマッカーサー最高司令官が、‘子供のようだ、子供のように純真無邪気だ’と称したように昭和天皇を演じる名優イッセー尾形a0212807_7174885.jpg(1952~)の傑出した演技は、コミカルにしてシリアスそしてペーソスにあふれています。
映画のシーンは、ほとんど皇居の地下に設けられた防空壕の中ですが、プロダクションデザインを担った美術監督エレナ・ズーコワの手腕も秀逸で当時の時代考察ならびに調度類の考証も良く研究していました。
イッセー尾形演じる昭和天皇に絡むのが、侍従長役の佐野史郎(1955~)と皇后役の桃井かおり(1951~)で、ソクーロフ監督の演出に丁寧に応えた二人の演技も見どころです。
a0212807_7181764.jpgとくに皇后役の桃井かおりが、侍従長役の佐野史郎から天皇の人間宣言を録音した技師の自殺を聞いたとき、悲痛とも怒りとも付かぬ表情で、天皇と侍従長二人を見て夫である天皇の手を取り疎開から帰った子供たちの待つ部屋に連れ出すまでのシークエンスは、ソクーロフ監督が、こだわったシーンだったようです。
撮影監督としてのソクーロフ監督も秀逸でした。
a0212807_7193595.jpgとくにアメリカ軍のB29爆撃機が、東京を空襲するシーンでは、VFX技術を駆使してB29の大編隊を燃え上がる東京上空の火の海を泳ぐ魚の大群に見立てた映像が、悪魔の襲撃のようにも見え地獄絵図さながらでした。
「太陽」は、サンクトペテルブルク国際映画祭でグランプリを受賞しました。
      *
ドイツの文豪ゲーテ作「ファウスト」をソクーロフ監督は、映画の冒頭‘ゲーテの原作を自由に翻訳’ とクレジットして少し難解で哲学的なプロットをシンプルに描いています。
墓に埋葬された死体を買い取り、魂の在り処を探すファウスト博士(ドイツの俳優ヨハネス・ツァイラー 1970~)が、魂を売る悪魔は、メフィストでなく高利貸マウリツィウス(ロシアの俳優アントン・アダシンスキー 1959~)です。
悪魔の高利貸マウリツィウスは、猫背で外見からして生理的に嫌な雰囲気の老人で、彼の登場するシーンになa0212807_7263363.jpgると画面が、グロテスクに歪み、悪魔から連れて来られた森の中でファウストは、美女マルガレーテ(ドイツの女優イゾルデ・ディシャウク 1993~)に魂を奪われますが、このシーンは、ロマンティックで美しくなります。
ソクーロフ監督の演出は、至ってシンプルながら作品にソクーロフ監督独自の美意識が、貫かれており、映像は、時として歪んだり、色調が、セピアやブルーに変化したり、醜(悪、グロテスク)と美(善、ロマン)を変幻自在に錯綜させて構成して行きます。
ドキュメンタリー映像作家として稀有な才能をもつソクーロフ監督だけに映像へのこだわりも相当なもので、悪魔a0212807_7273012.png(悪)は、金(マネー=金融資本)という辛辣なテーマをVFX技術の駆使によりシュールにしてファンタジーな映画に撮りました。
19世紀当時の町並みや建物は、ドイツ美術を参考にリアルなオープンセットを組み衣装なども正しく当時のままにプロダクションデザインした美術監督のエレナ・ズーコワ(「太陽」も担当)の手腕も見事です。
映画にタルコフスキー監督の影響を感じるのは、弟子であったソクーロフ監督の師匠へのオマージュでしょう。
「ファウスト」は、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を受賞しています。
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マルガレーテを演じたドイツの女優イゾルデ・ディシャウク (1993~)が、美しく印象に残りました。
by blues_rock | 2016-07-27 00:07 | 映画(シネマの世界) | Comments(2)
Commented by j-machj at 2016-07-29 10:03
おはようございます。

「太陽」は見ました。
ストーリーは、淡々としているけども、何故か?
引き込まれました。
やっぱり、イッセー尾形さんの演技がよかったからかもしれません。

国家君主を神格化している日本では、この映画は作れないでしょうね。
その点イギリスは、ヘレン・ミレンがエリザベス女王を演じた「クイーン」で、苦悩する現役の女王を見事に描いていますね。
Commented by blues_rock at 2016-07-30 10:11
昭和天皇の不幸は、古代日本(大和朝廷)の国体であった神道(神宮・神社)の祀りごとを計らう神主の長(権位)でしたのに明治以降の全体主義国家システム(権位と権力の合体化)で神格化(現人神)にされたことに起因していると思います。
新憲法で象徴天皇にはなりましたが、国家元首の役割は、不磨の大典と呼ばれた旧憲法国家システムの弊害(かつ天皇の退位も女性天皇も認めない天皇制)として温存されました。
現平成天皇の退位お気持ちもすべからく本音であろうと私は、推察いたします。
「太陽」では、'人間’に憧れる昭和天皇の姿が、良く描かれていました。
イッセー尾形一世一代の昭和天皇の名演技にスタンディング・オベイションいたします。