クロエ シネマの世界<第625話>
この映画のシェフであるエゴヤン監督は、メロウな恋愛ドラマという在り来たりな素材をエロティックなソースで煮込み官能的な風味のあるサスペンス料理にしました。
講演のため出張している大学教授の夫デヴィット(リーアム・ニーソン 1952~)は、妻のキャサリン(ジュリアン・ムーア 1960~)が、彼の誕生日に友人知人を招きサプライズ・パーティを企画していることを知ってか知らずかパーティに間に会う予定の飛行機に乗らず、あえて便を遅らせ(乗り遅れたと嘘の電話を入れ)深夜に帰宅しました。
翌朝、夫の携帯をふと見ると女子学生と思しき若い女性からのツーショット写真付きのメールが、あり「昨夜は、ありがとう」との送信メッセージを見てしまい、その時から妻のキャサリンは、夫デヴィットの言動すべてを疑うようになりました。
二人一緒に出かけても夫の若い女性への視線、仕草、話しぶりまで夫が、どの若い女性にも性的関心を持っていると思え、自分へのどんな言葉も嘘に聞こえ、キャサリンの夫デヴィットへの浮気疑惑妄想は、広がるばかりでした。
キャサリンは、家にガールフレンドを連れて来て自室にこもる息子にも当たり散らし、次第に自らの体調(心身のバランス)を壊し<精神的にも極限状態に追い込まれていきました。
そんな不穏な日が続くある夜、夫と食事に行ったホテルのトイレで偶然、若く美しい娼婦のクロエ(アマンダ・セイフライド 1985~ 「親愛なる君へ」の主演主演、2015年コメディ映画「テッド 2」ではコメディエンヌキャラも披露)に出遭いました。
娼婦のクロエは、キャサリンに一目惚れ(クロエにとって男は売春しお金を稼ぐ相手の存在)、何かにつけ親しく振る舞うようになりました。
クロエの性癖(ゲイ=レスビアン)を知らないキャサリンは、娼婦であるクロエにお金を渡し夫デヴィットを誘惑し、夫との性行為をすべて報告するよう依頼しました。
クロエは、キャサリンから依頼されるたびにデヴィットとの生々しいセックスの一部始終を報告しました。
そして動揺するキャサリンをクロエは、やさしく抱擁、愛撫しキャサリンもまたいつしかクロエの性愛に応えるようになりました。
キャサリンをファムファタル(運命の女性)として熱愛するクロエ‥混乱して行くキャサリン、この映画の見どころは、何と云ってもキャサリンを演じるジュリアン・ムーアの成熟した姿(女体)とクロエを演じたアマンダ・セイフライドの美しく瑞々しい肢体(と吸い込まれるような大きな目)です。
エゴヤン監督は、名女優ジュリアン・ムーアと若手女優アマンダ・セイフライドの動きを鏡やガラスに映る妖艶なショットで撮り、そして二人の間が、次第にすれ違い、壊れゆく様をサスペンスタッチで描いています。
娼婦クロエをニンフ(妖精)のように演じたアマンダ・セイフライが、何とも魅力的で女優としての新たな才能を発見しました。