マネー・ショート ~ 華麗なる大逆転 シネマの世界<第589話>
何より「マネー・ショート」の‘ショート’が、金融市場で“カラ売り”を意味し、このカラ売りについて理解していないとサッパリ分からないと思います。
普通、“カラ売り”と云えば、ある上場株式が、突如高騰し‘売り’と判断しても、自分は、その株を保有しておらず他人名義の株を借りて売ることを意味します。
その株が、予想通り首尾よく暴落すれば、カラ売りしていた借株を買い戻し元の貸株主に返済すれば、その差額が、カラ売りした人の利益となり取引は、終了します。
カラ売りが、予想に反してさらに高騰すれば、やがて到来する借株返済期日に値上がりした相場価格で買い戻さなければならず大火傷(差損返済)することになります。
この「マネー・ショート」のプロットは、金融ジャーナリストにしてノンフィクション作家マイケル・ルイス(1960~)の著書「世紀の空売り(The Big Short)」を原作にしています。
あの100年に一度と大騒ぎされた2008年サブプライム住宅ローンバブルの崩壊と創業158年の名門投資銀行でアメリカ第4位であった巨大証券会社リーマン・ブラザーズの負債総額64兆円という史上最大の会社倒産(リーマン・ショック)を社会背景に、サブプライム・ローンの危険を予知し、バブル崩壊の3年前から“カラ売り”を仕かけ、世界当時株価暴落に始まる信用不安によるサブプライム・モーゲージ(投資銀行販売のサブプライム不良債権証券)の破綻で巨額の利益を得た4人のアウトロー(ウォール街の異端児)たちが、この映画の主人公です。
4人のアウトローをクリスチャン・ベイル(1974~)、スティーブ・カレル(1962~)、ライアン・ゴズリング(1980~)、ブラッド・ピット(1963~ 製作も担当)が、それぞれ個性的に演じています。
監督と脚本のアダム・マッケイ(1968~)は、信用不安による劇的な世界金融システムの崩壊をドキュメンタリータッチでリアルに描き、同時にサブプライムバブル崩壊の阿鼻叫喚をシリアスかつコミカルな演出により、投資銀行と証券会社のイカサマ金融工学が、捏造したMBS(モーゲージ担保証券)・CDO( 債務担保証券)・CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)など詐欺行為としか思えないメチャクチャな金融商品(サブプライム・モーケージ)を見ている者に分かりやすく教えてくれます。
とくに映画の終盤、4人のアウトローたちが、利益を確定するために「CDSを売る」ことを考えますが、この場合の「CDSを売る」は、映画冒頭に出てくる「CDSの売り」と真逆の意味です。
この「CDSを売る」は、必死で巨額損失を防ごうとしている「CDSの売り」義務を負う大手銀行などの機関投資家やヘッジファンドに彼らの所有する「CDSの買い」の権利を売ることを意味しています。
ここら辺が、ややっこしいので、この映画の内容についてもう少し詳しく知りたい方は、「マネー・ショート」の公式サイト( こちら から ⇒ About the movie ⇒ Memu)をご覧くださると分かりやすいと思います。
撮影は、イギリスの名撮影監督バリー・アクロイド(1954~ ケン・ローチ監督作品の撮影監督として有名)が、担っています。
女優陣では、名女優のメリッサ・レオ(1960~ 2008年「フローズン・リバー」、2010年「ザ・ファイター」でアカデミー賞助演女優賞受賞)とマリサ・トメイ(1964~ 1992年「いとこのヴィニー」でアカデミー賞助演女優賞受賞)が、出演し脇を固めています。
参考 : 「円高というよりドル安 ‥ 覇権国家アメリカの没落」