天才アンドレイ・ズビャギンツェフ監督‥傑作3作品(後編) シネマの世界<第574話>
主人公のヴェラを演じるスウェーデンの女優マリア・ボネヴィー(1973~)が、何と云っても すばらしい!の一言です。
ヴェラの夫アレックスを演じるコンスタンチン・ラヴロネンコ(1961~ カンヌ国際映画祭最優秀男優賞受賞、「父、帰る」の父親役)が、妻ヴェラから「赤ちゃんができたの。あなたの子ではないけれど‥」と突然告げられ感情を抑えながらの困惑ぶりも秀悦です。
ズビャギンツェフ監督は、お互い愛し方の分からない、どう相手と向き合えば良いのか分からない中年夫婦の、
ズビャギンツェフ監督4作品の中から一番好きな作品を選べと言われたら私は、「ヴェラの祈り」を選びます。
次にご紹介する作品「エレナの惑い」と併せ、それぞれのストーリーの詳細、主演俳優のプロファイル、予告編を
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2011年作品「エレナの惑い」(カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞)では、ズビャギンツェフ監督が、オリジナル
ロシアのある地方都市で資産家の夫と再婚した元看護婦のエレナは、高級マンションで優雅に暮らしていました。
エレナと夫の寝室は、別でエレナの朝は、髪を梳かし夫の身の回りの世話から始まり、食事の準備、広い自宅の掃除、時おり夫が、求めるセックスの相手をすることでした。
エレナには、前の夫との間にできた自立できない息子とその家族(2人の子供と妊娠中の妻)があり、パラサイトの息子は、労働意欲が、まったくなく母親エレナからの経済的支援で生活していました。
息子家族の暮らす低所得者層用のアパートとその隣に並ぶ原子力発電所の原子炉が、ロシア社会の閉塞した情況を象徴するようにヒンヤリした風景を描き出しています。
エレナの夫にも離婚した妻との間に娘がおり溺愛し甘やかしていました。
ある日、夫が、スポーツジムで心臓マヒの発作を起こし病院へ緊急搬送されました。
数日後、退院し自宅へ帰り「明日、遺言を作成する」とエレナに伝え、財産のほとんどを一人娘に遺すと伝えました。
エレナは、脛かじり息子家族の将来を考えると経済的に不安があり、心臓マヒで退院した夫にバイアグラを飲ませ服薬による事故死に見せかけました。
夫が、書きかけた遺書を燃やし葬儀では、愛する夫を突然亡くし嘆き悲しむ未亡人として振る舞いました。
夫の一人娘と財産を二分し相続、亡き夫と住んでいた高級マンションに息子家族を迎え暮らし始めました。
映画ラストのシークエンスで息子家族の赤ちゃんが、亡き夫の寝室ベッドに一人寝かされ、家族は、寝ていると思っている赤ちゃんが、起き上がりベッドの上をヨチヨチ歩き始めたところでカメラは、一転し映画冒頭と同じ長回しショットで窓の外からエレナと息子家族の団欒を静かに映しそして終わります。
ズビャギンツェフ監督は、「エレナの惑い」の演出も前作「ヴェラの祈り」と同じような構成で、映画の冒頭とラストの同じシーン(カメラアングルとショット)を見せ、もちろん映像が若干違うものの見る者の心に不穏を残して終わらせています。
エレナを演じたロシアの女優ナジェジダ・マルキナ(1958~)の存在感(リアリティ)と静謐な演技も見事でした。