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心の時空

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ダニエル・デイ=ルイス 「ボクサー」  シネマの世界<第554話>

a0212807_1164574.jpgアイルランド映画の名匠ジム・シェリダン監督(1940~)は、希代の名優ダニエル・デイ=ルイス(1957~)と組んで1989年「マイ・レフトフット」、1993年「父の祈りを」(ベルリン国際映画祭グランプリ金熊賞受賞)、1997年「ボクサー」といずれも秀作映画を撮っています。
ダニエル・デイ=ルイスは、出演する作品を選ぶので俳優人生40年のキャリアで出演したのが、19本とその類稀な演技力とアカデミー主演男優賞3回(史上ただひとり)ほか多くの主演男優賞受賞歴と名実ともに名優としての人気から考えても寡作な俳優です。
ダニエル・デイ=ルイスの徹底した‘役作り’は、怪優ロバート・デ・ニーロにも譬(たと)えられ、今まで多くの映画ファンを唸らせてきました。
さて、ダニエル・デイ=ルイスは、その‘役作り’ぶりをこの「ボクサー」でも見せてくれます。
映画は、北アイルランドの首都ベルファストを舞台にしたキリスト教カトリックとプロテスタント住民の深刻な対立、カトリックとプロテスタントの住民同士も穏健派と過激派に分かれて対立しお互い血で血を洗う殺戮を繰り返していたころの物語です。
a0212807_1184120.jpgちなみに現在、北アイルランドに住むキリスト教徒を人口比で見るとカトリックは、47.2%、プロテスタント民が、48.6%と拮抗しています。
映画「ボクサー」は、アイルランド人のジム・シェリダン監督の信念とも思える「同じ民族(同胞)、同じ住民(隣人)、同じキリスト教徒同士が、宗派の違いで殺し合ってどうする。 お互いコミュニーケーションを交わし民主的に話し合えば解決することではないか」というメッセージとして撮られています。
そう私は、理解しました。
主人公のダニー(ダニエル・デイ=ルイス 1957~)は、19歳のときIRAのテロリスト(組織の過激派に利用された)として警察に逮捕され過酷な取り調べにも口を割らず14年間服役しました。(参考:刑務所内のIRAメンバーへの虐待と彼らの抵抗を描いたスティーブ・マックィーン監督の長編デビュー作品「ハンガー」も秀作です。)
a0212807_11164764.jpg10代のころボクシングをしていたダニーは、刑務所の中でも身体を鍛えシャドーボクシングを欠かしませんでした。
映画は、14年間の刑期を終えて出所したダニーが、故郷ベルファストのダウンタウンに戻るところから始まります。
ダニーは、元のIRA仲間と付き合わず、真っ当に生きるためスラムに手造りの質素なボクシングジムを始めました。
そんなダニーを疑心暗鬼のIRA過激派の元仲間が、放っておくはずはありませんでした。
10代のころのダニーには、相思相愛のマギー(エミリー・ワトソン 1967~)という恋人がいました。
刑務所に14年服役するダニーは、恋人のマギーが、自分を待たないよう敢えて何の連絡もしませんでした。
a0212807_11262350.jpgダニーからの連絡が途絶え不安になった10代半ばのマギーは、ダニーの親友と結婚、10歳くらいの息子がいました。
ダニーは、街の子供たちを集め、民族・宗教・階級分け隔てなくボクシングを教え、自分もプロのボクサーとしてデビュー、強いダニーが、市民のヒーローになるとテレビニュースも放っておかず、ベルファストの警察互助会は、彼の人気を利用しジムに通う貧困層の少年たちa0212807_11302077.jpgに多くのボクシング用品を寄贈し警察関係者が、ジムに出入りするようになりました。
不愉快なのは、IRA過激派の元仲間たちでした。
一方でイギリス政府と刑務所にいるIRA活動家を釈放することを条件に和平交渉を推進する穏健派のリーダーでマギーの父親ジョー(ブライアン・コックス 1946~)は、ダニーを理解し見守りました。
IRA過激派組織からテロリストとして利用され固く口を閉ざし(仲間を裏切らず)恋人を諦め彼女への愛を心の支a0212807_11324284.jpgえに獄中の孤独に耐えるダニー役のダニエル・デイ=ルイスの演技は、若くして分別のなかった自分の過去への怒りを孤独の内に収めた哀感や何もかも捨て生きるためだけに微かな希望を心に秘めた表情さらに喜怒哀楽の激しい感情を昇華して、人に対してやさしくふるまう所作の見事さなどボクシングの体作りからファイトシーンまでの完璧な演技と相俟って見る者を唸らせ感動させます。
エンドロールの歌「In The Shadow Of The Gun」も良く、歌っているのは、映画の音楽を担当したミュージシャンa0212807_11435922.jpgのギャヴィン・フライデー(1959~)です。

余談ながら私が、敢えて個人的に好きな映画の第1位を挙げるならダニエル・デイ=ルイス主演の「存在の耐えられない軽さ」でしょうか。
自分の心が折れたり、窮屈になったとき、枯れ始めた草花に水やりするような気持ちで見ています。
by blues_rock | 2016-01-21 20:32 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)