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心の時空

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パリ3区の遺産相続人  シネマの世界<第545話>

この映画の監督スラエル・ホロヴィッツ(1939~)は、劇作家・脚本家として知られていますが、現在公開中の映画「パリ3区の遺産相続人」(原題「The Old Lady」~めずらしく日本語タイトルのほうが的確な表現で好い)で初めて監督に挑戦しました。
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舞台脚本(戯曲)を70本以上手がけているので出演者たちの台詞(せりふ)も洗練されて‘粋’なこと、映画は、パリ3区の歴史的な地域マリにある高級アパルトマンを舞台にフランスのエスプリというよりイギリス人特有のユーモアときにシリアスなブラックユーモアも交えながらのウイットに富んだ大人たちの愛を巡る会話が、粋で
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辛辣かつシャレており、ホロヴィッツ監督の冴えた演出と併せ舞台脚本家の面目躍如と云ったところです。
これを名撮影監督ミシェル・アマテュー(1955~、最近の作品では「パリよ、永遠に」)が、パリのしっとりとした情景を背景に主人公たちの人生(愛)の苦悩をやさしく受けとめ、慈愛に満ちた眼差しで撮っています。
a0212807_15385.jpg物語は、不仲だった亡き父親が、遺したパリの高級アパルトマンを遺産相続し売却するためニューヨークからやってきた57歳になるマティアス(ケヴィン・クライン 1947~)は、アパルトマンの元所有者である90歳の老婦人マティルド(マギー・スミス 1934~)と娘のクロエ(クリスティン・スコット・トーマス 1960~)が、そこに住んでいることを知りませんでした。
父親から愛された記憶が、ないマティアスは、大学生のとき母の自殺を目撃したことが、生涯トラウマとなりアルa0212807_15337100.jpgコール依存症となり、結婚にも3度失敗、借金も重なり身動きのとれない惨めな人生をやり直す資金にするため父親唯一の遺産であるパリの高級アパルトマンを売却するつもりでした。
ところが‥マティアスの前にフランス独特の厄介な不動産売買制度「ヴィアジェ(viager)」の壁が、立ち塞がりました。
アパルトマンの元所有者である売主のマティルドは、フランスの法律「ヴィアジェ」により終身居住権が、保証さa0212807_1543071.jpgれており、さらに買主(父親の遺産相続した)マティアスには、売主のマティルドが、亡くなるまで毎月一定額の年金を彼女に支払わなければならないという法的義務を負わされました。
マティアスの父親は、なぜマティルドからこの高級アパルトマンを買い取ったのか?‥マティアス、マティルド、クロエという大人の男女3人の愛憎と喜怒哀楽が、交錯した感情‥それをユーモア・ウイット・シニカル・センチメンタルなど心の機微を交えた会話(セa0212807_159094.jpgリフのかけ合い)は、お見事です。
マティアスと街の不動産屋ルフェーヴル(ドミニク・ピノン 1955~)とのエスブリの利いた会話もなかなか粋です。
私が、普段映画を見るとき、その判断基準にしている“監督・脚本・俳優”の3つを文句なしでクリアした映画であり、この3本柱のセンスで映画を愉しませながら最後までグイグイ引っ張って行きます。
a0212807_205199.jpg若いマティルドとマティアスの父親の二人が写る古い写真に記された「あなたに愛されないなら誰の愛もいらない」という情熱的な愛の告白は、何を意味するのか?
人生に大切な男女の愛‥そのロマンスの本質を「パリ3区の遺産相続人」でシリアスかつエキセントリックに描きながら‘C'est la vie’(セ・ラ・ヴィ)とつぶやくホロヴィッツ監督は、粋な才人です。
by blues_rock | 2015-12-26 01:26 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)