ブログトップ | ログイン

心の時空

yansue.exblog.jp

a day in my life

裁かれるのは善人のみ  シネマの世界<第540話>

ロシア映画の鬼才アンドレイ・ズビャギンツェフ監督(1964~ 2003年に秀作映画「父、帰る」で長編映画デビュー、初監督作品にして ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞)の新作映画「裁かれるのは善人のみ」は、完成度の高い“映画史に残る傑作”と思います。
a0212807_0382959.jpg
私は、ズビャギンツェフ監督に世界映画史で燦然と輝くロシア映画数々の名作を撮った歴代の天才、鬼才監督たちの遺伝子(DNA)を感じます。
ズビャギンツェフ監督は、黒澤明監督、溝口健二監督という二人の日本人監督を深く敬愛、さらに俳句に親しむa0212807_0395487.jpgところなどアンドレイ・タルコフスキー監督(こちら)と良く似ています。
ロシア映画の源流にして世界映画史の記念碑(メモリアル・モニュメント)となる1925年サイレント映画の傑作「戦艦ポチョムキン」を撮った巨匠セルゲイ・エイゼンシュテイン監督(1898~1948)もまた映画モンタージュ(編集)理論を確立するうえで若いころ学んだ日本語の漢字構成にヒントを得たことなどロシア歴代の名映画監督を繋ぐ遺伝子リレーに日本文化が、大きく関わっているa0212807_052363.jpgように思います。
映画「裁かれるのは善人のみ」(原題「リヴァイアサン」)のプロットは、17世紀イギリスの哲学者トマス・ホッブスが、1651年に発表した政治哲学書「リヴァイアサン」の思想に基づいています。
ホッブスは、人間の権利(自然状態)は‘万人の万人に対する戦い’とし、人間固々人に共通する善による人工国家(コモンウェルス=共和国)の必要性を提唱、これをモチーフにして「裁かれるのは善人のみ」の脚本が、構成a0212807_053077.jpgされています。
上映時間は、2時間20分と長尺ながら脚本・演出・配役(キャスティング)・撮影(映像)・美術(プロダクションデザイン)・音楽・構成(編集)と、映画のどれをとっても“完璧”としか言いようがなく、冒頭から最期まで私の五感は、ずっとスクリーンに張り付いたままでした。
映画に無駄なカット(ショット)やシーンがなく、ストーリーの起承転結(メリハリ)と云い、緩急自在な展開と云い、ただa0212807_153366.jpgもう感心するばかりでした。
「裁かれるのは善人のみ」は、カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞、ほかにも世界各国の主要な映画祭で数多く受賞しています
映画の舞台は、ロシア北部のバレンツ海に面する荒涼とした小さな町です。
先祖代々この地に住まう善良な町民のコーリャ(アレクセイ・セレブリャコフ 1964~ ウォッカをカブ飲みし感情を抑える表情のリアリティが秀逸、理不尽な冤罪を背負うことになる)は、ここで小さな自動車修理工場を営みながら先妻亡きあと再婚した若い妻のリリア(エレナ・リャドワ 1980~ アンヌュイな表情が魅力的、彼女もまた悲劇の犠牲a0212807_157272.jpg者)と息子のロマ(セルゲイ・ポホダーエフ 1998~ 十代半ばの多感な少年を好演)の3人で平和に暮らしていました。
コーリャは、腕の良い自動車修理工ながら短気で気が荒く昼間からウォッカをガブ飲みする大酒飲みでした。
映画のカメラは、冒頭バレンツ海に面した北部ロシアの荒涼とした荘厳な風景を見事な構図で映し、そこで起きa0212807_1574840.jpgる理不尽な悲劇の連鎖‥罪もない善人コーリャに降りかかる不幸をリアルに描いています。
コーリャは、自分の家と自動車修理工場のある土地を市長選挙に勝つため行政の権力を振りかざして強制買収しようとする市長(ロマン・マディアノフ 1962~ 欲まみれの悪徳政治家を好演)を裁判所に告訴、モスクワから若いころ軍の同じ部隊にいた友人で弁護士のディーマ(ウラジーミル・ウドビチェンコフ 1971~ 善良ながら権力の暴力に非力な弁護士を好演)に弁護を依頼しました。
a0212807_159314.jpg市長は、国家権力を後ろ盾(市長デスク後ろのプーチン大統領肖像写真がいつも映る)に地元のキリスト教正教会・裁判所・警察と結託し脅迫と暴力で対立するコーリャと弁護士ディーマに不当な買収価格の土地売買契約書にサインするよう迫ります。
コーリャの旧くからの友人で隣人の交通警官パーシャ(アレクセイ・ロージン 1970~)と彼の妻でリリアとは鮮魚加工場の同僚であるアンジェラ(アンナ・ウコロワ 1978~)たち市井の人びとも登場させながら、市民と国家、人と神、善と悪など普遍的なテーマを物語に絡ませて不条理な権力の悪に抗えない善良な人間の悲劇と不幸、ロシa0212807_212148.jpgア現実の非情さを描いていきます。(「裁かれるのは善人のみ」の詳しい情報はこちら
「裁かれるのは善人のみ」のプロットに似た「善人を守るはずの正義が、国家権力による悪の犠牲」となる映画にフランス・ドイツ共同製作の「ミヒャエル・コールハース」と中国映画「罪の手ざわり」があり、ともに秀作なので良い映画をご覧になりたい方にお勧めいたします。
a0212807_21372473.jpg「裁かれるのは善人のみ」の劇中で、主人公のコーリャが、何かにつけウォッカをビンごとまるで水でも飲むようにガブ飲みするシーンが、気になりロシア人男性の平均寿命を調べたところ2013年平均63才、日本人男性の平均寿命80才と比べると如何にも病気疾患、早死にするためにウォッカを飲んでいるようなものです。
交通警官のパーシャもヘベレケなのに‘俺は交通警官だぞ’と言い残し平気で運転して家に帰りますし、野外a0212807_292977.png
バーベキューピクニックでも男たちは、皆ウォッカをカブ飲みし酔ってフラつきながら子供たちの遊ぶところで空き瓶を並べ‘実弾射撃の腕前’を競うのですから平和で安全な国に暮らす日本人の私がロシアの苛酷なリアル(現実)を理解できなくて当然です。
by blues_rock | 2015-12-12 02:45 | 映画(シネマの世界) | Comments(0)