みつばちのささやき シネマの世界<第557話>
1973年発表の「みつばちのささやき」が、長編デビュー作品ながら映画ファンを唸らせた傑作映画です。
日本では、1985年に公開され以後スペインの名作映画として何度も公開されています。
「みつばちのささやき」の原題は、「El espíritu de la colmena」、直訳すれば「蜂の巣の精霊」という意味だとか‥私は、外国映画の日本語タイトル(=アイデンティティ)についてこだわりがあり、「みつばちのささやき」というタイトルは、良く映画の本質を捉えていると思います。
エリセ監督は、長編作品を3作しか発表しておらず第2作となる1983年作品「エル・スール」も傑作ですので近日中にご紹介したいと思います。 (注:第3作の1992年作品「マルメロの陽光」は長編ドキュメンタリーです。)
さて、「みつばちのささやき」は、1973年の発表から42年を経た2015年の現在でも映画としての鮮度が、些(いささ)かも落ちておらず、映画史に残る名作としてこれからも新しいファンを増やしていくと思います。
スペイン現代音楽の作曲家ルイス・デ・パブロ(1930~)の音楽(サウンド・トラック)が、撮影監督ルイス・カドラード(1934~)の静謐な陰影に富んだ美しい映像と良くマッチしていました。
何といっても主人公の幼い少女アナの演技が、抜群にすばらしく、映画の撮影当時わずか5才であったアナ・トレント(1966~)は、エリセ監督から言われたことに黙って従い素直に行動しただけでしょうが、純真で無垢な幼い少女をこれ以上ない完璧な演技で演じ、生まれ持った天与の才能を如何なく発揮しています。
ミツバチの研究をしている高齢の父フェルナンド役のフェルナンド・フェルナン・ゴメス(1921~2007、「蝶の舌」主演)、二人の娘にやさしく美しい母テレサ役のテレサ・ヒンペラ(1936~)、アナと仲良しの姉イサベルをイサベル・テリェリア(1964~)も存在感のある個性的な演技をしています。
エリセ監督は、5才のアナが、混乱しないよう映画に登場する人物たちの名前を俳優の名前にしたそうです。
1940年スペイン内戦も終わり、カスティーリャ地方の小さな村で6才の少女アナは、いつも一緒にいる2つ年上の姉イザベル、みつばちの研究に余念のない父フェルナンド、遠く離れたところにいる誰かにいつも手紙を書いている母テレサと幸せに暮らしていました。
ある日、村の公民館で映画「フランケンシュタイン」(1931)が、上映されました。
幼いアナは、フランケンシュタイン博士の作った人造人間(モンスター)を怖がるどころかむしろ興味津々で姉のイサベルにモンスターについていろいろ質問しました。
イサベルは、疑うことを知らない純粋な妹のアナをいつもからかい、フランケンシュタイン(モンスター)も‘精霊’と教えました。
学校の帰りイサベルは、アナを連れて広大な畑の真ん中にある廃墟の家畜小屋に行き「ここが精霊の家よ」と教えました。
アナは、精霊(モンスター)に会うため独りで学校の帰りや夜ベッドを抜け出して廃墟に行きました。
ある時、ここにスペイン内戦で追われた共和国(人民戦線政府)軍の若い兵士が逃げ込みました。
アナは、彼もまた精霊(モンスター)と思い自分のリンゴを与え、夜になるとこっそり家から父親のコートと食料を持ち出して届けました。
次の日アナが、廃墟に行くと彼は、血痕だけを残し、もう居ませんでした。
父親のコートにあった懐中時計を若い兵士が、取り出すのを見ていたアナは、食事のとき父フェルナンドの手にその懐中時計があるのを見て子供ながら彼の身に何かあったことを知り独り、真っ暗な夜の森深く彼(精霊)を探しに行きました。
映画は、アナが、夜寝室の窓を開け放ち精霊に「わたしよ、アナよ」と呼びかけるところで静かに終わります。